なかなかね、の日々を

声が聞こえたので。

幸せな、さりとて幸せな、皆が皆そうだとは思わないし、なんなら幸せそうにしている、君も君も、道端で浜昼顔に反吐を出すようなことがあるのかもしれないが、表面上は、表層の、星でいえば重力に捕まった可哀想な気体のような、発散せずともとにかく漂っていて、それが当然かのように(そのままでいるとは限らないのに!)いるだけなのかもしれないが、おれにはどうにも幸せそうな、そのように君らが見せたいのか、このおれがどうにも卑屈な、偏屈な、痛みを自慢したいばかりに、幸せの総数をごまかしてもっともっともっともっと! もっともっと! いくらでも幸せを得るために、隠している蔽っている、からなのか、つまりは痛みをあえて得ることでこの、煙草を辞めて十七時間が経った時のような、薬指と喉の少し下と陰茎の少し上がふるふると脈動するのを感じる時のような、栄養の足りない脳が世界を見つめるときの快楽を得ようとしているのか、それはわからないのだが、そのようにしているように感じられるので、感じてしまった場合はどうすればいいのか?

それは、君らの幸せをきちんと祝うことができるのか?

やあ。

端的にいうとね(といってからまとめてある例を見たことはないのだが)、きちんと生きねばならないのだが、どうにもならん。

なかなかね(上手くまとめられたと思うのだが)なかなかね。

なかなかね、の日々を。

以降移行とそういうやつ

えらいことに,はてなダイアリーという,僕の青春をなんとなく歪ながらに,思春期の爆発感情と,延々と厭世感を積み上げられていたサアビスが,終わるらしい! 困ってしまった! はてなブログというやつに移行できると書いてあったので,今移行の手続きを(手続きを? 手続きは行ったが,なにかよくわからない色のついた棒が伸びていくのを見て,おお,僕の書いたよくわからないものどもが移動しているのだなと感慨もなにもないが,ただただ生み出してしまったので雛を,当時は鳳のように書いていたつもりだったが)見守りながら本当に移行されているのか,本当にすべて移行されてしまったらまた恥ずかしさの中,全てを,きっと僕を形作った全てを,また反芻しなければならんのかと思いながら,見守っているのだが,まあデータなので,可憐に配置されることでしょう。可憐な文章しか書いてないからね。クソくらえだ。

というわけで何年か,5年です。5年も貴方方と離れていた。久しぶり,久闊を叙す。

ところでね,未来の話は鬼が笑うからすまいよ。

 

嗅覚を欲す

ところで皆、元気してたかい? 夢は叶ったかい、まだ生きてるかい、愛はどうだい。僕はずうっと弱くなったけれど、元からそんなに強くはなかったから、まあ、だいたいおんなじ様な感じさ。君は、ずうっと強くなったけれど、きっと変わってないんだろう。それってワリと、ステキなことさ。
今日の喉は、ヤケに乾いている。ヤケに乾いているので、僕はプルタブを起こす以外に、何も考えられない。いや、今日はそういうんでない、瓶にしよう。王冠のほうが、プルタブよりずっとステキだ。ところで、君の喉はどうだ。乾いているか。僕の杯を、この杯を受けてくれるのか。ニイと笑って、受けてくれるか。いつだってそれは、簡単な事じゃない。酒を飲むのが辛いのは、酒のせいではないよ。酒は心の割れ目に満ち満ちて、そうして翌朝には何処かへ行ってしまう。言葉は体中の血管に染み込んで、そうして翌朝には。


あれから何年か経ったけれど、僕は、未だに愛を信じている。

散歩


川沿いを歩く
雀が鳴いている
路上の餌を啄ばみながら
時折雀が鳴いている



川沿いを歩く
溝鼠が飛び出す
アパアトのゴミでもあさるのか
突然溝鼠が飛び出す


これは散歩
注意は散漫にして
思考は揺ぎ無い
これが散歩


道というのは何処かに繋がっていて
それでいて僕は何処に行くでもない
酒を少し楽しんだ後に
人生を少し考えた後に


どうするのだと人は言う
何処に行くのだと人は聞く
けれど
僕はあっけらかんとして
何をするでもないよと答え
後悔なんぞ何処吹く風と
何処に行くでもないよと笑う


もしも君らが雀なら
群れて鳴くのもいいだろう
もしも僕が溝鼠なら
誰にも知られず暮らすがね


年は明けたがまだ目は覚めないでいる。

自殺について

 彼らは、彼女が自殺したのだと言う。それも、揃いも揃って、同じ顔で言うのだ。お悔やみ申し上げます、このたびは誠に残念なことで。僕は彼女が自殺したとは思えないね、と煙を吐いた。人生は、完結しないといけない。例えどんな終わり方にせよ、完結しなければ、それまでやってきたことは、何だったというのだ。自殺は、僕の言う自殺というのは、その意味で、完結のためにあるので、彼女のは、まるで自殺ではないのだ。何故って、死んでしまうその前日においても、彼女はまるで中途半端だったじゃあないか。
「そうは言っても、自殺は自殺だろう。自分で死を選んだのだから」
「そこがね、僕はどうにも間違っていると思うのだよ。彼女は死を選んだんじゃあない、死を選ばされたんだ」
「どういうことだい?」
「確かに彼女は最終的に死ぬ決断をした。けれども、それが本意であったとは、僕にはどうにも思えないのだ。こればっかりは、死んでしまったので、直接聞くことはできないが、彼女は不本意であったのではないかなあ。つまり、僕は彼女が自ら進んで死を受け入れたわけではないと思うのだ。殺されたのだよ、彼女は」
「殺された?」
「そうだ。社会や、世間や、有象無象や、それに僕と君に、彼女は殺されたように思えるのだ」
「人聞きの悪いことを言うものだ。僕も君も、彼女を殺したなんてつもりはないだろう」
「いいや、君はどうかわからないが、僕にはあるのだ。僕が、もう少しだけでも彼女を救ってやれれば……これは大きな事を言っているのではないよ。話したり、手を握ってやる、それくらいのことさ。そうしてやれていれば、彼女は死ななかったんじゃあないか」
「それは、もしかしたら、そういうこともあったかもしれないが」
「そうだろう。僕と君は、彼女が悩んでいたことを知っていたのだ。誰よりも、いいや、彼女のいい人に比べたらそれは劣るかもしれないが、彼女のことを知っていたはずなのに、僕たちは何も出来なかったのだ」
「それで、僕たちが殺したようなものだと、そう君は言うのかい」
「確かに、言い過ぎかもしれない、論理の飛躍や、過大評価、過小評価があるだろう。だけれども、やはり彼女は殺されたのだよ」
「僕と、君に」
「君と、僕に。それと有象無象だ。自殺というのは、もっと完成されていないといけないのだ。例えば武士の切腹、あれなんかは人生を完結させるためのものだろう。忠義や、責任や、そのために腹をさばくのだ。だけれども彼女には、そのような、死ぬべき理由は無かったのだ」
「理由は……いやいや、彼女は悩んでいただろう」
「そこなのだよ。彼女は何故悩んでいたのか。彼女を悩ませていたのは、まぎれもなく周囲の人間なのだ。だから、彼女を死に追いやったのは、周囲の人間だと、そういうことになるのではないかね」
「そう言われると、確かにそう言えなくもないがなあ……しかし」
「僕は君を議論でやっつけたいわけではないのだよ。僕は、自殺というものに対して考えてみたいだけなのだ」
「君に言わせると、世の中のほとんどの自殺は自殺でないように思われるね。借金苦での自殺、人間関係での、あるいは、なんだろうね、それらも全て自殺ではなく他殺なのか」
「借金苦は、借金に殺されたのだ。人間関係は、人間に。そうだ、死にたかったわけはないのだ、人間の本意が死にあるなんて、人間が進んで死を選ぶなんて、僕はどうしても考えたくないのだよ」
「心中はどうだい?」
「ああ……あれは自殺だろう。双方が同意していれば、まぎれもなく自殺だ。永久の愛のために、二人は死ぬのだ」
「それは、二人の愛に反対した、例えば二人の家に、それに殺されたとも言えるのではないかい」
「なるほど。そう考えたことは無かった。だけれども、最初に言ったように、自殺において、僕は、完結が大事だと考えるのだ。心中によって二人が、二人の愛が完結するのならば、中途半端でないままに終われるのであれば、それは自殺であると思うのだよ」
「彼女は、心中の片方ではないよ、僕と君の、あの子だ。彼女は、そんなにも中途半端だったかね?」
「実を言えば、僕は、約束していたのだ。春になったら、散歩に一緒に出かけることを、約束していたのだよ。去年、桜の綺麗な道を見つけたので、それを彼女に言ったら、一緒に見に行きたいとのことだったのだ。約束を守らずに死んでしまうなぞ、僕は、どうにも、彼女が悲しくて仕方ないのだ。約束を守らずに死んでしまうほど、彼女は逃げたかったのだよ。僕は、彼女と心中しても良いと、ぼんやりと、そう思っていたのに」

君は、プロフェッショナルではあるけど、まるっきり本物じゃない。汚れちまった挙句、必要なものを全部捨ててしまった。あの子はアマチュアだけど、ぜんたい本物だ。それでも汚れちまった挙句、欲しかったものは全部手に入らなかった。いくらアウトローを気取っても、いくら鎖を切り離したつもりでも、いくら逃げ切ったつもりでも、いくらにこやかに笑っても、いくら希望を歌っても、いくら他人を救っても、君もあの子も、身体を売って稼ぐ、社会の下僕なのさ。君は今でも彼女を救えたと思っている。もしも君に、ひとつだけ間違いがあるとすれば、それだ。そんなものは、救いようのない、たわ言だ。救われないロボット人間が救われない犬畜生を救うなど、馬鹿げた妄想だ。君はあの子を日陰から出してやりたかったようだけれど、あの子は涼しいところが誰よりも好きなだけだったんだ。あの子は何も語らず、ただ微笑んでいただけだったけれど、君が日向にいないことだけは知っていたんだぜ。あの子は君の嘘を暴きたかったわけじゃない。あの子は君の本当のところを肯定したかっただけ。とてもシンプルな感情論さ。


ああ、それでも君は救われていた!
ああ、それだから君はあの子に救われていた!


それが悲しみの源であることを僕は知っている。それが更なる痛みを生むことを僕は知っている。過去に囚われるのは、鎖に繋がれているのと同義だ。過去を顧みないのは、自らの脳髄を巻き散らかすだけの結果を生むのだ。君は熟慮しないといけない。君とあの子は同一でなく、同じところに立っていたわけでもなかった。

「ベッドですること以外は、君とのほうが楽しいよ、世界中の誰とよりも、君とのほうが」

君は熟慮しないといけない。全ての言葉の意味を。全ての表情の意味を。そして、全てのあの子の意味を。


わかったつもりで、二度、三度。思い巡らしてみたものの、焦燥感の募るばかり。一番救われたいのは僕なのに。