くゆらす感情

煙草のにおいにはまだなじめなかったけど、すきなひとがそこにいるってこと。それ最高。『結婚してくれよ』、小粋な冗句飛ばす合間に、着色料で出来ている液体を喉に流し込む。美味い。にんじんを持ったうさぎが目の前にいる。僕はうさぎからにんじんを取り上げて、ゆっくりとそのジト目を楽しみたいんだ。でもそんなこと、そしたら僕、嫌われるだろうから、軽い冗句で洗い流す。添加物でできた食事を胃に押し込みながら。『結婚してほしいんだ』、くだらない冗句飛ばす合間に、間接照明を少し見つめる。薄暗い店内に、隣のテーブルから煙が漏れる。『ここ、煙草よかったんだ』。ぽつりと漏らして、煙草、取り出す彼女に、『体に悪いよ』と、心配していなさそうに言った。『平気』、自分だけが大丈夫なように、言うけど。素敵な貴方、ずっと見ていたいからなんてセリフをぼやけるはずもなくて、少しの間とともに、『体に悪いから、さ』ともう一度だけ言った。最初は彼女、ぽかんとしたけど、うつむき頭を軽く振って、『じゃ、やめとく』とだけ言った。『でも明日吸うよ? 今日の夜かも』『だったら今日はずっと一緒にいるよ』『明日も?』『明日も』『明後日は?』『明後日は、仕事』。彼女、またぽかんとして、『明後日は祝日よ』、とだけ言った。だったら明後日も一緒にいよう。冗句は飛ばせなかった。『じゃ、明後日も一緒にいるよ』『残念。明後日は私が休日出勤』。僕はぽかんとして、『だったら結婚してくれよ』と言った。