我々は酔っ払った

作っていたのは、いつだって足りないものだったし、欲しいものだった。僕は何にも要らなくなってしまった。心は焼け焦げて、後ろと前ばかりを意識するようになった。立っている場所がおろそかになり、さっきまで見ていた場所さえ思い出せなくなってしまった。一日に煙草一箱少しと、弱い酒、生きるに必要な分の食料、勝手に入ってくる情報、そんなもので暮らすようになった。渇望がない、欠乏がない、細胞は乾いていない。こんな日々を僕は求めていたとでもいうのだろうか、考えて、俺は絶句した。耳の奥に残るハウリング。あのギターのリフは未だにちっとも色褪せちゃいないのに。弱くなった、僕は弱くなった。彼女はそれを歓迎して、僕はそれに怒りを覚えた。自慰で失ったたんぱく質は、着実に脳から搾取された。そうして、僕は何も作らなくなった。新しいもの、それは怖いものではなかった。今は、とても怖いのだけれど。
人を、できるだけ遠ざけておきたかった。孤独を忘れると弱くなる。孤独に慣れてはいけない、けれど、孤独を忘れると弱くなるのだ。渇きを忘れる。僕は、人懐こくて、それでいてよく人を離した、そう評されたことがある。孤独に慣れてはいけないけれど、孤独を求めるのはさらにいけない、教わったはずだった。


夢現に声を聞いたのだ。あの恐ろしく、かすれた声を。なんと言っているのかまるで判らなかったが、あいつはあの時、確かにそこにいた。難しいものを作ってしまいたかった。難しいもので、中身をごまかしていたかった。爆音意外欲しくなかったのに、裏側の音を探していた。何でもつける矛が欲しかったのに、何も守れない盾を探していた。ルート音以外欲しくなかったのに、ハーモニクスばかり聞こえてきた。すかれたくて仕方がなかったから、少しの憎しみばかりを集めた。傍らの機械が鈍い音を発している。モズライトのシェイプが美しく。
殴られたくはなかった。殴りたいのに、殴られたくはなかった。俺には覚悟がなかった、それは今も。意味のないたわごとに耳を傾ける必要はない。おしゃれ音楽に耳を傾ける時間はない。空き瓶が転がっている。夕方六時。日本酒を飲んでいる場合ではない、甘い酒はもってのほかだ、ウィスキを飲まねばならぬ。俺はウィスキを飲まねばならぬのだ。


日本酒を、飲むなら、安酒を、色気のないコップで。