猿でもわからない

金が無くて首が回らないよと笑っている。俗世的な、あまりに俗世的な、こんな日は音楽に限る。現実を置き去りにしてビートは進む、かといって幻想に生きるわけでなく、悲しみの先にかすかな希望が見える。煙をくゆらしながらのMy Funny Valentineに涙が出るのは、けして煙が目にしみているわけではないのだと思う。ちっともfunnyじゃないじゃないか、糞ッタレ。悪態ついて一回り、酒と煙草の時間は過ぎる。JAZZは悲しすぎる、PUNKを聴こう。馬鹿にでもわかることだけわかりたいんだ、今は。
一人で考えることは、二人で考えることと違う。二人で考えることは、三人で考えることとは違う。四人で考えることもね、ずっと違っているんだ。そのどれもが僕には愛しくて、だから迷いが生まれる。地元の風はずっと遠くあって、この部屋までは届いてこない。僕は理想に近づけているかい? 君が言ってくれなかったら、僕はわからないんだ。わからないんだよ! 悲しいことも、嬉しいことも、僕は一人じゃわからないんだ。そうして、僕はずっとこの部屋に閉じこもりきりなんだ。僕の奇麗事なんて性器を握りながら考えたことさ。自慰さえする気が起きなくて、けれどそれでは進まないことを知っているので、無理やりに手を動かしていた。満足するくらいの快感が得られたのか、それさえもどうだってよくなっていくんだ。欲望を否定して僕の生き様は続かない。自慰の後、一人で考えていた、薄っぺらくたってそれが本当のことならば納得ずくでぶっ壊してやるってね、そんな日もあった。本当のことは大事なことだと決めつけて、なにもかもそっちのけでそれだけにすがろうとした、そんな日もあった。だけれど、わからなくなった。大事なことが、本当のことががわからなくなった。
君は、わかるかい? 例えば一人の夜、月なんか見ていて、悲しくも激しい音楽の中で、君は何が本当だと思うんだろうか。
僕は、ただね、君に好きだって言ってあげられることに誇りを持っているんだよ。だってあの悲しい人は好きな人に好きって言うことも怖いって言うんだ。好きな人が自分のことを好きじゃないのが怖いって。そんなの悲しすぎるじゃないか。君が、僕のつまらないところや、くだらないところ、汚いところを憎んでいたって、僕は君が好きなんだから。これが恋愛感情かどうかは僕にはわからない、でも、だからって好きって言っちゃいけないわけじゃないだろう。君が明日死ぬかもしれないから、僕は今日君に好きだって言うよ。君が明後日死ぬかもしれないから、僕は明日君に好きだって言うよ。それでいいじゃないか。君のことが嫌いになったら、僕は嫌いになったって言うよ、君はそんな時泣くのかな、それとも僕は言えないのかな。まだわからないけれど、僕は君を、今は好きだから、好きだって言わせておくれよ。僕の近くの君よ、愛させてくれないか。
君は、俺に失望したのか。それは、あの日俺があの人に失望したのと、もしかしたら同じ気持ちなのかもしれない。悲しい気持ちだった。あの日、僕が悪くなかったなんて口が裂けても言えないけれど、僕はどうしようもなく悲しい気分だった。僕は、さよならを言えずに、ずっと今まで生きてきてしまった。いつか、言わねばならないと思って、それでも言えなかったのだ。失望した次の日、僕は軽薄なことに、あの人に愛を持っていた。だからかな。
ねえ、君の家に泊めてくれないか、それで、夜、ずっと話さないか。


ああ、うるさいだけの音楽がやりたいな。それで、なにもかもわからなくなるんだ。斜に構えて安心している奴の目の前で爆発させてやるんだ。