八月に降る雨

所詮性欲、所謂性欲。過去の話は好きかい。俺は嫌いだよ。過去の話をしよう。
僕のことを好きだといってくれた女の子もどこかへ消えた。雲ひとつ無いならば、太陽よりも輝くあの子を見たかった。雨が降るなら、雨に濡れるあの子を見たかった。全部自尊心のためだった、生ゴミのような、それに群がる無数の虫のような、俺のためであった。少しでも自分を素晴らしいものだと思いたかった。誰にも馬鹿にされたくなかった。誰にも殴られたくは無かった。誰にも軽蔑されたくなかった。その癖たくさん馬鹿にした。少女漫画のような恋は無かった。希望はあったと思っていたが、それはただの勘違い、思い込み、真白に消える夢の出来事であった。夢想家のたわ言であった。それから、自意識だけが日に日に育っていった。俺は、屋上を見ることも無かった。そうして、理想のあの人が俺を好きになることも無かった、きっと、そうだった。誰しもが無条件に俺のことを好きになるわけではなかった。俺は、そのとき、誰しもが無条件に俺のことを憎まない、それを感謝するべきだったのか、それとも、愛されることに感謝をすべきだったのか、わからないままだが、どちらもしなかった。俺は尊大であった。俺のことを良しとしない人々を、ただ有象無象だと過小評価した。尊敬しているはずの、それはあまりにも上辺であったのかもしれないが、人々に泣いて電話をした時間も、劇的な変化を求めていただけであって、冷酷な木が、俺の心臓に根を這わせていた。俺は、ただ、彼女が利いた風なことを言っているな、と微笑んでいた。侮っていた、尊敬と侮りはいつだって同時に行われたのだ、そのちぐはぐさに気づくことは無かった。何もかもを知っている気分であった、同時に、何もかもを知らないので動きが取れなかった。知ろうとしなかった、知るのが怖かったわけでない、ただ面倒であったのだ。日常は面倒なことばかりであった。飯を食うのは面倒だった、だから食わなかった。眠るのは面倒だったが、起きているよりは面倒でないので、ずうっと横たわっていた。自慰は面倒だった。抵抗があるわけでもなく、潔癖でもなかった、ただひたすらに、何かを想うのを拒んでいた。自分でさえこんなにも面倒なのに、他を考えるのなんて面倒でたまらないと、ひたすらに、虚しい気分であった。
やめよう、ちっとも楽しくない。
知ってたよ。


見上げる空に涙は無く。何も待っていなくたって構わないさ、明日は愛を貰えるかい? 明日は愛をあげられるかい? 君の声が聞きたくて仕方ないのに、まだすべては面倒な気分で、俺はあの過去を思い出すのだ。答えは風にさらわれて明日も消えていくというならば、俺もその風にまぎれたい、そんな気分さ。