情欲と純心

一文字も書かず、一音も出さない。怠惰の極みだ。そんなだから、けたたましく音が響いて、それからさ、何もなくなってしまえばいいと思っている。世界はこんなに美しいのに、僕にはちっとも綺麗じゃないの。昔のことを思い出せば、滑らかな残像の中に、思い出を探し出すことくらいできるだろう。けれども逆戻りするのは俺の時間だけだし、俺が一人ほくそ笑む間に全ては脈動し、世界は流動する。ついていけないと思うときは多々ある。複雑すぎるのだ。世界はあまりに単純なのに、俺には難しすぎる。


今、まさにここで、死んでもいい、無くなってもいい、と思える瞬間に出会うことは数少なく、今から、ここから、ずっと生きてもいいと思える瞬間に出会うことはさらに少ない。いつかどこからか、俺ははじまらねばならない。はじまらねばならないわけだが、タイミングが見出せずにいる。瞬間が来ても嬉々として見逃しちまうこの俺だ、細い体にしてはあまりに愚鈍、動くということを思い出せずにいる。俺が動かずとも万物は光速の何パーセントかで広がっていく。それゆえに、だからこそ、俺が俺を許してやるために、俺は動かねばならない。昨日までか、一時間前までか、それとも二秒前までか、それまでのことを忘れちまう以外にないと思うのだ。俺は俺を認めてやらねばならない。たとい夢破れても、眼下に山河が広がるではなく、白い壁があるだけだ。
愛を求めている。愛されたいと切に願う。らぶ、ぴーす。誰かを愛してやることが俺のちっぽけな腕でできるだろうか、ひと一人も確かには殴れないこの腕だ、抱きしめることさえもかなわないかもしれぬ。それだのに、俺は、愛を求めている。受け渡すことをせずに、貰うことばかり考えている。さらけ出すことなしに、心臓をささげて欲しいと叫んでいる。今の俺は、俺一人のためだけにしか存在していないというのに! 俺はあなたを真に求める、あなたのためだけに音楽をやる、そう思える人に出会えれば、俺はそこで終わったっていい、果てたっていい。間違いでも、勘違いでも、俺はそれでいい。繋がりあうことがかなわなくとも、美しき人がこれからも生きていくのを確認できれば、俺は満足なのだ。俺は俺ということに満足なのだ。


ロックンロールがやりたい。なんでもないような奴だよ、鼻で笑われちまうような奴さ。それでいいんだ。


俺はここで妥協するのだと叫びながらも、僕はまるで満ち足りていない。プライドだけが馬鹿でかく肥大してしまって、一寸の体に五分の魂も持ち合わせていない俺と、まるでつりあっていない。向上心という言葉はどこかに置いてきてしまった。口では躍進を確約しながらも、奥底では停滞を望んでいる。それでさ、なんだ、進まないんじゃないか、言われた途端に逆上だ。矛盾を指摘した周りが悪いのかい? 世界が悪いのかい? いいや、俺が悪いんだ、全部俺が悪いんだ、それくらいは知ってるさ、見てみぬ振りをし続けているだけで。俺の矛ではどんな盾をも突き通せないし、俺の盾ではどんな矛をも防げない、だとすれば、あなた、これでこれをついたらどうなりますか? 正解、同時に両方壊れちまうんだ。