隙間からさ

ロックンロールをやらなければいけないかもわからん。昔のあの子との思い出をさ、すっかり美しい日々に変えてしまうためにも。ただ誰のためでなく、格好よさを求めるでもなく、ただ繋がることだけを、小さな部屋で繋がることだけを望んでさ、ロックンロールをさ。俺が語れる言葉はあまりにも小さく、今を、この時間を精一杯生きるなんていう素晴らしい芸当はできそうにもない。過去ばかり見て、未来ばかりを案じて。
格好付けの音楽は、あまりにも耳に届かぬ。だからなんだと、それがどうしたと、いつまでも考えている。逆に、泥臭い偽善だらけの音楽が、あまりにも心に届きすぎる。騙されてるのはわかってる。けれど、涙さえ出るこの愛しさは本当ですよ。ステージ上で痙攣しようとも、嗄れた喉で叫ぼうとも、突き抜けていく快感は本物だ。自慰でもしているのと同等、いや、もはやそれ以上の、ものだ。
誰かが俺を裏切ろうとさ、誰かが俺に嘘をつこうとさ、俺は傷つきゃしない。俺が傷つくのは、俺自身が、あまりにも未熟で、幼くて、矮小でさ、そう考えちまったときだよ。居場所を与えてくれている重みを、痛いほどに感ずる。恩返しなどできようもないのに、責任を感ずる。俺がせねばならぬことは、音を、大きな音を、綺麗な音を出すことだけなのだが、そればかりができぬから、泣きそうになる。
悲しい音がするよ。ノイズのさ、混じった音だよ。音質も悪くて、まるで何を言ってるかもわかんねぇけどさ、確かにそれはロックンロールでさ、確かにそれは俺の望む世界でさ、それなのに! なんでこんなに悲しい曲なんだよ! 違うだろ、もっと熱い衝動だったはずだ。いや、果てなく熱を帯びた音楽であるには間違いないのだろうが、俺には悲しくしか聞こえはしない。
どこから世界を見てるんだろうね。俺とは別の場所から、同じ場所を見ている人を思い出す。俺は、恋愛感情や性衝動は抜きにして、年上のあの人が好きで仕方がない。あの人がさ、人見知りだろうと、空気が少し読めなかろうと、んなことはまったく問題にはなんねぇだろ? 女の子であろうとさ、男の子であろうと、関係のないように。メールが面白くあろうと、面白くなかろうと、安心して続いていくように。俺が迷いごとを相談するのもさ、あの人が俺と同じ場所を見ているという安心感からだよ。
あぁ、俺の周囲を囲む人々は、俺と同じ場所を見ているのかね? それが疑問なのが、辛い。別の場所を見ていると言えば、彼らを信用していないのかと言われ、同じ場所を見ていると言えば、彼らを気持ち悪いものだと言っている気がする。
シンプルに刻み込まれるビートの中の不気味さよ。ロックンロールをやらなければいけないかもわからん。全部丸々ひっくり返すために。