くじら

嘘が嫌いだから嘘をついたんだ。裏切りが嫌いだから裏切ったんだ。嫌われるのが嫌いだから嫌ったんだ。辛いのが嫌だから辛いままなんだ。痛いのが嫌だから痛いままなんだ。怖いのが嫌だから怖がってばかりなんだ。俺はまだあの子が好きだから、どうしても嫌いなんだ。
世界は、あまりにも変化を見せない。劇的な変化というものは、いつも決まって表面だけのもの。上昇でも下降でも昇華でもなんでもそうだ。俺が見ている風景の、少しずつしか変わっていかぬように。雨の日、晴れの日あるけれども、山が崩れてしまうことはけしてない。ま、もとから山がないのだから、崩れようもないがね。積み重なった塵ばかりが、大事なものであるはずなのに、雨に流されてしまって。
ほのぼのと、しかし情熱的に流るる音楽を、聴く。歌詞を、延々とかみ締め、メロディの自然に繋がっていく様に涙する。な、音楽は素晴らしいな。辛さとか痛みとかそんな重いものは一時間弱忘れようか。アルバムの、曲順さえも愛しく思いながら。連続的な浮遊感。思考力は無となり、肉体はもぬけの殻、あるいは呼吸をするだけの入れ物となる。脳は溶けて耳から出てきてしまいそうだ。目は開いていても、何も見えていない。この一枚の音楽以外、俺には何も届かぬ。あいつが俺を嘲ったとて、奴らが俺を見下したとて、俺が何もできなかろうとて、そんなことは関係ない。今の俺には、少なくとも耳以外何もないのだから。


さて、よく死にたがるね、君は。メールは、打たないでおく。けど、メアド、変えるんならまた教えてくれよな? 零コンマ二秒で返ってくるのはなかなか辛いもんがある。俺が困った顔の自分に気づくのも、また一興か。俺はさ、周りの人が、辛い顔してるのを見たくないから、いつも馬鹿なこと言ってんだぜ。空気も読めないのに、そんなこと思っちまったからさ、いっつも君らには迷惑かける。けどさ、この気持ちは嘘じゃないんだ、そこんとこだけ、理解してもらえるとありがたい。だから、俺は君に、とりあえずあと一週間過ぎるまで、頑張って欲しいと思っちまったんだな。俺は伝えるのが下手だしさ、恥ずかしくてやってらんねぇから、ここにこうやって、言葉、おいておくことにするよ。君が見て、少しでも唇とがらせてくれれば、幸い。