動物実験として

あの子はすべてを話すことで自分が救われると思っていた。懺悔でなく、告白でもない、純粋に自己の全てを話すことで、救われるのだと信じていた。後悔なんて、あるいは罪の意識など一つたりとも持ち合わせていないのに、ぼんやりとした不安に包まれていたのだ。きっと、愛する人に抱かれて泣きながら話した夜もあっただろう、あるいは世界で一番憎しみを持つ男に、汚い言葉を投げたこともあっただろう。けれども、いや、だから、さ。あの子はそれをもう繰り返したくないのだ。何故って、何故ってね、彼らは救ってくれなかったからさ。包み隠すことをしないのは、彼女なりの処世術で、これからはきっと失敗するまでそれをずうっと続けるのだ。
やっとだよ、やっと、と彼女は笑う。これまでずっと死んでたから、これからようやく生きていかれるんだ。これまでのことは全部嘘で、これからのことは全部本当だから。
この子にとっては全てが実験なんだ。死んだらそれまでの実験を繰り返して、死んだらそれは、それで、いいのだって。それで僕はようやく納得した。僕にとっちゃ全部現実だったのだけれど。

「世の中の全部が最悪だって思うのは、ずっと最後で、世の中の全部が最高って思うのは、それからすぐのことだったのね。だから、きっとそれが始まりなんだって。終わりが来た後に、きっと始まるんだって。そうやって思ったの」


桜が満開で、僕はどうにも発狂した。半端な笑顔で春を待っていたはずなのに、どうにもあの色を直視することができないのだ。桜散る中で僕が終わっていくならば、僕が始まるのは新緑の手前、葉桜の侵食する季節。春に犬が死に、行き着く先はロボット人間と人間ロボットの狭間。どうにも現実だらけで、逃げ出すことにすれば、ようやく気付くのだ。
ああ、彼女の心象風景は、ここにあった。
桜の木の下には死体など埋まっていない。生命力よ、美しさよ。死体が添えてあるならば、葉桜の、その生命力の、そんな場所に、細い首。