我に返るまで短くなった

心の優しさを歌った男は、巨乳の女とセックス三昧だった。世の中の汚さを皮肉った女の子は、三十路を超えてもそのまま子供だった。夢みたいだな、こんなに世界が素晴らしいなんて、こんなに皆が僕に優しいなんて、夢みたいだ、そんなことを言いながら、ACIDキめて少年は死んだ。夢だったんだよ、と馬鹿が笑う。生きていてよかったと、そんなことも言えぬまま、小心者の馬鹿が笑う。いったい誰が幸せなんだい? ひょろりとした笛吹き男が現れて、僕の子供を連れて行った。鼠と一緒に連れて行った。それはそれは、可愛い鼠だったのに。
頭脳の端っこで考えていたことが、ついに現実となって現れ始めた。最初は薄い灰色、雨雲の様であったけれど、どうやら近づいてくるにつれ、そいつは大量の目玉であることに気づいた。妄想、妄言垂れ流し、暴走、暴言吐き散らし、果てには沈黙。裏側が見えるんだと思っていたのに、なんということはない、僕の脳がヤニ黒焦げていただけじゃないか。馬鹿らしい、思考が馬鹿らしい、あの子は馬鹿らしい。


幸せをそのまま歌っちゃいけないんだ。僕らは生きているだけで意味があるんだ、なんて御為倒しで安心しちゃいけないんだ。気が狂ったフリをしている場合ではないし、気がまともな格好でいるべきじゃない。懐かしい場所で煙草を吸えば、懐かしい香りと懐かしい空気、僕はそれが幸せで、幸せなのが切なくて、どうしようもなく自棄になった。コーヒーの空き缶蹴飛ばし、我に返って拾って捨てて。時がたつのも怖ければ、時がたたないのも怖く。


赤いSG、冷えたコーヒー、お気に入りの曲、煙草、酒、酒、酒、酒! 酒! 酒! 酒!