サラバの地よ

ともかく格好のいい言葉だけで世界を覆ってしまいたかった子供は、数年してから気づいてしまった。賢い女の子は、ずっと前から気づいていた。たわごとパーティはすぐ終わってしまうもので、イカした言葉を振りまいていた男は、自分のことを金星人だと思い込むようになっていた。代わる、代わる、がなる、がなる。単純明快、わかりきったことだったのだ。ありえないものを探すより、近場のもので、満たしてやればよかった。そうすれば、こんなに嫌な夢なんて見なかった。妄想、現実、狭間は常に不愉快で、どちらかに偏ってやりさえすれば何となく気持ちの良くなったように思えるのだ。どちらかの中に、残ったものを当てはめるしかない。そうやってできたものは、何となく心地よかった。いつの間にか、僕は、何となくの世界に取り込まれていた。
何となくじゃ駄目なんだよ、と少女は煙草を咥える。慌てて僕はそれに火をつけた。
壊そうか、と考える。居心地のいい場所なんて、十のうち八か九、偽者だ。怖そうか、と考える。壊してしまえば何も僕を安心させてくれないよ、恐ろしいな。請わそうか、と考える。僕が逃げるために、僕の代わりに誰か、俺の生きる意味を作ってもらえないだろうか、なんて。ぼんやり考えている間に、改行の多い声色で、マクドナルドのストロー、噛み続けながら、セックスばかりの話を、少女は、した。体だけでもつながっていれば、なんて、ありきたりだけどね、少女は笑わずそう呟いた。だいたい頭がおかしいんだよ、セックスばかりの奴は。性器と一緒に頭までゆるくなってるんじゃないの? そうして、少女はようやく笑った。
僕は、逃げ出した。
たった百人から糞ッタレな目で見られただけで。たった十人から嘲笑されただけで。たった二人から理解されなかっただけで。たった一人から拒絶されただけで。
走り去って気付く、幻想の夜など、幻想だった。きゃら、きゃら、と笑う顔を思い出しながら、握り締めた冷たい缶コーヒー、飲み干そうとして、灰皿に使ったことを思い出した。頭は、着実にマトモになっていった。とにかく、物語の中のことが、僕の身に起こるわけがないのだ。
然るべくして、少女は僕を殺しに来て、大丈夫よ、また笑った。酒に逃げてから、ゆっくり考えりゃえーが。僕も笑った。