ずっと同じような

誰に許しを請うわけでないよ、俺は俺の求めるものを、ただ捨てているだけの毎日であった。あの子は、きっと、ずうっとこんな気持ちなのだろうと考える。この夜も、きっとあの子は悲しい歌を聴くのだろう。わがままのあいつは、きっと歌など聴かないだろう。俺はnordの音を聴いている。ずっと嘘を吐き続けている、悲しくてたまらない。誰も君を救わないよと、あの日僕は言われたのだった。
記憶の中、人の前で泣いたのは何日ぶりなのだろう? きっとずっと、俺は弱くなった。脆弱な蛙になった。雨の降るを見ると、泣きたくなるのだ。過去を思うと、泣きたくなるのだ。嬉しかったことが、今の俺にはどうにも悲しくて仕方がない。誰をも祝福できぬ。俺の怠惰が嘘であることを願う。あの人に、また迷惑をかけてしまったのだと思う。放任を謳いながら、俺は人から離れることができぬ。一人にならねばならない。きっと、持病の殺されたがりが発症しているのだと思う。僕のいない夜は、きっと美しく歌うだろう。君のいない夜は、俺の代わりにあいつが泣くだろうさ。永遠は柔らかなもの、愛情は優しいもの、そうして、どちらも本物は手に入らぬのだ。知らなければいいことは知らないでいたい。騙されたままですむならば、俺はそのほうが良いよ。雨の降らぬ季節がようやく訪れて、俺はそんなことを思うのだ。
痛みは興奮だ。痛みを見ると性的な興奮を覚える。単純な幸せは僕を喜ばせるだろう。恋をするのが、下手になった。そんな七月であった。暗い夜は何日かあり、明るい昼が何日かあった。


そうして、八月は、流れるように過ぎた。逃げようもない、殺せそうもない、鬱屈することも許されない。しがらみは、どうやら、柵、と書くようだ。なるほど、同じようなものに思える。囲われているのだ、囚われ、外と内ははっきりと区切られている。

 最近は何をしてるの? と僕は聞いた。
 彼は、仲買人だよ、と答えた。
「あっちからこっちへ商品流すだけでさ、ぼろい商売よ」
 へえ、なんて僕は間の抜けた声を出した。
 僕は、彼の商品が男娼であることを知っている。
 彼も、僕が知っていることを、知っているのだ。
「クロカワさん、なんだって?」
「お金がないんだってさ」
「相変わらずだな、あの人も」
 彼は笑った。
 僕は、笑えなかった。

囲われることは、幸せでさえある。柵の中から出なければ、襲われることもない。周りの羊と舐めあっていれば、馴れ合っていれば、柵の中で世界は完結する。あの人は、僕を囲わなかった。それを僕は不幸だと思った。あの日、僕は確かに縛られたかった。同じ柵の中で、あの人と僕が同じ羊であることを確認したかった。けれど、あの人は僕を縛ることのなかった。それを今は、幸福だと思える。


破壊され、再構築もできず、九月。生きることだけを考えている。