とーくいこー

あいつのこと嫌いになったわけではないよ。あの人のことを好きになりすぎただけさ。俺はいつだって、どこか見知らぬ海にいて、体半分浸かっている。愛することのすべてを僕が知るならば、愛することの意味を僕は失うだろう。想いは届かないほど重くなるよ、それが、縛る、過去に見るあの人は、俺にとって大事なことを教えてくれた。本当のことは、あの日失われた。けれど、それは俺が持っていた、矮小な本当のことに過ぎない。これからずっと、本当のことを俺は知るだろう。失われるほど見つけやすい、捧げたものには与えられる。かつての俺は、この感情を情欲と呼んだだろう。半年前の俺は、この感情を欺瞞だと感じただろう。一ヶ月前の俺は、この感情を焦りだと思ったであろう。一週間前の俺は、この感情を渇望だと信じ込んだであろう。今の俺は、この感情こそが俺に戻る唯一の手段であるように思える。
日本酒を飲まねばならぬ。俺はアル中になっていた。逃げるために酒を飲んでいた。同時に、酒に逃げていた。俺は、日本酒を飲まねばならぬ。分かるための酒だ。分別だ、そのための酒なんだ。分かって、別けろ。加茂泉を、飲まねばならぬ。我が地元の水は、やはり体に染み入るものだ。誰に依存しないわけにはいかぬ。酒も、人も、そのようなものであるように、思う。ゆったりとしたモーション、気が違いそうになるほどの、緩やかな酔い。

君と僕の愛する人がずっと幸せにいられますようにと
僕はあの人の手を振りほどき続けた
君と君の愛する人はずっと幸せにいられますようにと
君はあの人の手をとって遠い町に行った

悲しいわけじゃない 君のこと嫌いになれるわけなんてない
だけど幸せかって聞かれたら 「よくわからない」なんて答える
つらいわけじゃない あの人のことずっと好きだから
だけど満足かって聞かれたら 「何か足りない」なんて答える

遠くへ行こう 誰もいない町に行こう
遠くへ行こう 誰もいない町に行こう

屈服がほしい、絶望がほしい。殺したいばかりでいる。傷をつけたい、印を残したい、そう思うことをずっと避けていた。期待を持たせて、それで俺はどうするつもりなのか。嫌われたいのかもしれぬ、と俺は考える。嫌われることで、簡単にしたいのだと。いつだって俺は簡単にしてきた。難しいことを扱うのは、怖い。だから、単一、二項対立、そんなものばかりを相手にしてきた。間の必要さを悟ったのは、ここ数年のことである。俺の思うどちらにも存在せぬもの、世界はそれほど複雑ではないものだが、世界はそれほど簡単ではなかった。俺は、複雑を欲している。あの子の首を絞めても、愛が生まれたので、俺は願ったのだ。
爆音が必要だ。音に逃げているとするならば、俺はこれ以上どこに逃げればいいのだろう。あの人が俺のことを少しでも思い出してくれるのなら、俺は死ななくていい。あの人が俺のことを思い出さないのならば、俺は生きねばならない。なんだ、消えるなんて選択肢はまるでなかったではないか。お笑い種だ、あまりにも滑稽だ。涙から生まれる怪物がいるというならば、彼はなんてかわいそうなのだろう。