夢、幻像、気狂い

不思議な気分の夢を見た。少し寒気のするような、けれど美しいもののような。やけに明確に覚えている。気持ちの悪いほどだ。高熱の出て、汗とともにその熱のひいたような、そんな寒気がする。快方に向かっているが、体は汗にまみれている。開放に向かっているが、どうやら縛られているばかりのようだ。

 俺は下関にいた。けれど壁にはってある地図は北海道のそれであった。何かの講義を受けながら、つまらなそうにメールをうっていた。講師は嫌いな教授であった。
 その時俺は、ふと、昔行った閉鎖的な村に行こうと思った。驚くべきことか、起きてから考えると、そこは昔、別の夢で見た村だ。そこには、「おかえり」という言葉が似合う可愛い子がいる。その日の夢で仲良くなったのだ。
 その村に入るには奇妙な道を通る必要がある。山道を進むと湖がある、その湖に点々と置かれた石、それを渡って行く。興味本位で進んだのだ。そうしてたどり着いた村は、いやに閉鎖的であった。俺は何故だか、少しの恐怖を感じた。誰もが何も語ろうとせず、俺は辟易した。帰ろうとした湖で出合ったのが彼女だ。帰るのですか、怯えた顔で彼女は言う。帰ります、と俺は答える、誰も俺を見ていないようなので、と。もう夜になります、危ないので今晩は、うちに、彼女はたどたどしく言う。ありがたい、と俺は思う。
 そんなことからゆっくりと、僕らは仲良くなった。村にも静かに馴染んでいった。別れは、目覚めであった。目が覚めて、僕は泣いた。その村に、夢の中でもう一度行こうとしていた。けれど、またもや目覚めがそれを壊した。目が覚めて数分は、ただ茫然としていた。
 寒気のするのは、もう一度村に行って、また俺は目の覚めることができるのだろうかと考えてしまったことだ。どうにもずっとあの村で暮らすような気がしてならない。その時、俺は、幸せなのだろうか。

寝ぼけた頭でそんなことを考える。夢日記をつけ続けると、現実との狭間、わけのわからなくなってしまって、気狂いにのまれていくという。けれど、俺は、これを記さねばならなかった。その必要に迫られていた。あの子が、きっと、どこかにいるのだとすれば、僕は、僕は、ああ、まだ生きていなければならないのだと、そう、ね。


俺は、自己の幸せを、静かに記さねばならない。尊敬はすぐに軽蔑に変わる。敬愛はすぐに侮蔑に変わる。俺は誰に見限られようと、俺は誰をも見限ってはいけないのだった。それを忘れていた。すぐに捨てたくなっていた。すぐにあきらめたくなっていた。すぐに死に向かおうとしていた。俺は生きねばならぬ、あの愛する女の子、愛する人々、そう、そして貴女のために。へ、これも嫌われちまうかね、きれいな言葉でごまかせるほど、馬鹿じゃないって知ってるよ。貴女は賢い女の子、だから甘えちまうのかね。
雨上がり、朝の空気は爽快で、煙の美味く、何かが起こりそうな予感がしている。