ぽたん、ぽろろ、ぽたん

何が欲しかったの。それとも何もいらないの。わからんね、なーんも、かーんも。えへら、と笑う。俺の特別は、きっとあの人にあげてしまったのだと思う。未だ残像を追い求めている。それは消えゆく影なのか、それとも俺を照らすものなのか、それも未だわからず。今も気を抜くと、黒いものが俺を殺しにくる。黒は、闇で、光を反射することのない、吸い込むばかりである。どうかしている。精神は正常である。肉体は健全とはいえぬが、悪くはない。ただ、黒いものが俺を殺しにくるのだ。俺は、そいつに殺されたくない。俺が殺されてもいいと思うのは、あの愛する人だけだ。


春になったら、死ぬことに決めた、いや、これは正しくない。春になるまでに、生きるに足るもの、何もなければ俺は死ぬことにした。きっと、何かがある。冬は俺を刺す、針のようでなく、ボルトが脳に刺さっていくように。穴が開いた脳から言葉が流れ落ちる、けれどいくらかすると、俺の語彙の少ないので、言葉は消える。何もなくなって、穴だらけの脳は軽くなってしまって、宙に浮けばいいのに、無造作に詰めこまれた雑念、雑音、雑感、いつまでも消えぬ、浮かぶほど軽くなることも叶わず、ぼとりと地面に落ちる。どうやら道行く人に蹴り飛ばされたようで、俺は脳を捜しに旅に出ることにした。ぼろぼろになった脳は、穴にコルク栓を詰められて、美しい人の家にあった。男だか女だか、彼は(あるいは彼女は)性別のわからぬような長い髪で、ただ、非常に美しくあった。そいつは言う、これ、あんたの脳? 可愛いね。つまんない脳だけど、可愛いよ。穴だらけなのも、なかなか素敵。だけど、中から変なものが出てくるから栓しちゃった。どうやって穴あけたの? ドライバー? 俺は答える、ボルトがね、刺さっちゃって。冬は良くないよ、冬は良くない、冬は僕を刺すんだ。そいつは言う、ね、脳、返して欲しい? 窓辺に飾っておきたいんだけど。俺は答える、頭が軽いのは苦手でね、コルクはそのままでいいよ、色んなものが出ずにすむ。そうして、春が来る。それならば、俺は生きるに足る。
死ぬなよ、死ぬのはつまんないから、つまんないのは好きじゃない。俺は何度もぼやいてきた。今、俺の愛する人は、俺の死なぬを信じてくれているので、俺はゆるやかに生を願うことができる。俺はそれに感謝する。


ぶっこわれてぶっこわして、それからまたさいこうちく。きっと、明日をすぎれば、また、静かな日。堅苦しい日々はごめんだね。