アルマジロ・アルマジロ・アルマジロ

こんな夜には全部、ぶち壊したくなるんだ。こんな夜には君も、ぶち殺したくなるんだ。こんな夜では僕は、いてもたってもいられなくて。こんな夜に僕は、煙草ばかりに頼っているんだ。消えてしまえばいいんだ、何もかも。なんてね、なんてね、誤魔化して誤魔化して、それだけで、なんとか保っている。

 家に帰ったら、アルマジロがいた。彼は少なくとも丸まってはいなかった。死ぬつもりだったが、死ぬのをやめた。あの子は笑ってこう言った、きみはね、アルマジロに似てると思う。俺は答える、自己投影もそこそこにしたほうがいい、俺はアルマジロなんかに似てやしないし、どちらかというと君のほうが似てる。あの子は言う、丸まって自分を守るのが一番よく似てる。俺は答える、俺はヤマアラシだよ、ずっとジレンマ抱えてさ。あの子は言う、刺さるまで近づくことなんてないのに!
「ね、アルマジロって何食べるのかな?」
「知らないよ。そんなことも知らずに買ってきたの?」
「いや、拾ったん」
「捨てアルマジロか。悪くないね、ステアの部分が悪くない。ステア・ルマジロ」
「拾ったあたしも悪くない?」
「悪くない、なんだか、とても悪くない。死のうと思ってたんだ。でも、やめた。やめたから、とっても悪くない」
「似てるね、アルマジロと」
「どこが」
「死に場所をいっつも探してるところ」
アルマジロってそんな習性あんの?」
「知らない」
 アルマジロをつついて、それでも彼は、今思うと彼だか彼女だか、それさえもわかってはいなかったが、丸くなりはしなかった。信頼されているのか、平和ばかり見てきたのか、それとも自分が丸くなれることさえ知らないのだろうか? あの子は言う、この子、変なの。アルマジロだって自分で思ってないみたい。俺は答える、俺だって俺だと俺は思ってない、だから似てる、なんてね。
 そうして、いくらかの日がすぎて、アルマジロは丸くなって、それから俺はあの子と別れた。結局、あの子はアルマジロと似てなんかいなかった。コオロギをぱくつきながら、アルマジロは言う、自己投影もそこそこにしたほうがいい、なんてね。


才能に触れること、絶望すること、それが俺を殺す。しかし、未だ生きているところを見ると、それくらいでは死なないのかもしれぬ。生きていこうと、ふと、思った。死のうと、ふと、思った。ぶれてぶれて、ずうっとステージを保てないでいる。自暴自棄になるのは、くだらないことだと知っている。自殺志願の少年と、リストカットの少女を、救いたくて仕方ないのに、俺はそれを殺したくている。ぶれてぶれて、ずうっと、だ。
こんな夜は全部捨てたくなるんだ。凡才は死ぬしかない、天才を夢見る凡才は、死ぬしかない。晒したい、足掻きたい、生きるだけじゃうんざりで、死ぬだけじゃうんざりで、それこそ二元論で語れはしないのに、単純にしたい。なんとでもなるのに、なんにでもなってしまえ、ってね。
酒が、いやにまわる。軽々しく愛してるなんて言って、でもね、ずっと言いたかったの。だから言わないと、俺は死ぬ。あの人とあの子とあいつとあいつとあいつに、そうやって言ったように、俺は言わねばならぬのだった。