みじかい夏は終わっただよ

あの子は探している、取るに足りない幻想を打ち負かす美しい現実を。僕は求めている、くだらない現実をぶち壊す狂ってしまった夢を。何度かひっくり返して、今はこちら側に立っている。いくらかの時間と世界が過ぎれば、僕はまた向こう側に立って、こちら側を憎むようになるだろう。何度も何度も、この繰り返しだ。気が違っているような叫びを思う夜、安寧だけを信じる朝。殺し殺され、殺し合い。愛し愛され、愛し合い。今貴女に捧ぐ、この声がかれるのは、愛を叫び続けたからだと。悲しい過去はもう捨てた、思い出にさえせずに、僕は叫ぶ。遠いかなたであの人は笑っている、君は泣いている、僕はただ、叫んでいる。あの子を可哀想だなんて僕は思わない。すべて正しい選択で、間違っていることなんてひとつもない。ただ、悲しみにくれるしかない夕暮れが待っていただけなのだ。後悔など必要ない、懺悔もいらぬ、愚痴は聞き果てた。あの子は探している、自分を愛してくれる人を。僕は求めている、ただひたすらに、いたいけな少女が幸せになれる桃源郷を。
サヨナラだ、サヨナラしよう、死にたくなんてないんだ、とっくに死んじまってる奴が死にたがりを笑っている。殺されたがりはだれに笑われよう、あの子に笑われるんならさ、それは望むことさ。
あんたのこと全部知っていることにさせてくれ。君に愛されたかったよ。あの人に噛まれたかったよ。ねえ、僕の愛しい人よ、僕を殺してくれないか。世界には二人しかいないなんてね、そんなにロマンチックにはいかない。けれど、世界は二人のために、いいや、僕は貴女のために、そうやって生きなければ、なんて生活は味気ないのだろう。少女は、その少女性ゆえに死んだ。つまらない男は、そのつまらなさゆえに死んだ。走り出した後にもその理由はわからず、別れを告げた後でもその暖かさばかりが思い出される。けれど、足を止めるわけにいかず、再会をするのはずっとあとの話になるだろう。だから、もうここで僕を殺してはくれないか。死にたくなんてない、ただ、俺は存在を殺されたがっている。有象無象に殺されるなんてごめんだ、俺は愛する人に殺され、そうしてそこで完成する。そのための音楽で、そのための文学だろう。
完成しないものになんの意味がある。未完成の、構築されていく様、それは美しい。むき出しの鉄骨、どこに繋がるかもわからぬパイプ、その美しさは、究極である完成さえも拒む。究極でないが故の、研ぎ澄まされた美しさ。けれど、それはきっと、いつしか完成してしまうがゆえの美しさであるべきだ。未完成のままで、ひたすらに自壊していく様は、どんなにか物悲しいだろう。俺は完成したい。ただ、人間存在として。完成したなら、その瞬間に消えてしまうほうが良い。誰にも見られず、聞かれず、思われず、そうして消えてしまうほうがいい。この考えさえも途上であり、いつしか普遍的なものに接続され、消えていくことだろう。それでも構わない。なぜなら、俺は完成を求めているからだ。完成を求めない全ての有象無象は、自壊していくだけなのだから。


いくらかの日々が過ぎ、みじかい夏は終わった。手首から飛び出している骨を眺めながら、俺は完成を望んでいる。