アンチ睡眠リバース安眠

悲しいだけじゃ救われない、楽しいだけじゃ報われない。等しいだけじゃ終われない、愛しいだけじゃ壊れない。走り去るスーパーカブ、ヘルメットには黒猫のステッカー。それが、新しい世界の幕開けだ。ただその日を思っている。過去は、過去においてきてしまった。思い出になってしまったから、アスファルトから立ち上る水蒸気が、その日を僕に思い出させる。夢でない色は覚えているのに、夢の中の色は、その鮮やかさだけ覚えていて細部はすっかり忘れてしまっている。耳を犯すギターの音、自らの叫び声、首筋を伝う汗、全て夢だったの、全て夢で、忘れ去られるの。そんな気分だ。誰とも語りあわず、誰とも愛しあわず、床を眺めては紫煙を燻らせている。涙がこぼれる。理由は、そう、何もしていないからだ。俺が求めるのは夢空言なのか。綺麗なメロディが心を揺らす。クラクションは旅の始まりを告げるというのに、警告音が解放を告げるというのに、それが安寧を縛り付けるの。
傷が残るくらい強く抱きしめてよ。誓えばよかった、ずっと君と一緒にいると、そう誓えばよかった。僕はずっとずっと、ここまできてしまった。何もいらない。君以外は何も要らない。それくらい愛せればよかった。夏の部屋、流れる汗、嬌声。変態性欲だって、色々すればよかった。くだらないね。

そのスーパーカブは未来に向かうんだ。あの子と僕を知る人は誰もいないずっとずっと先の未来へ。黒猫のステッカーはお守りさ。黒猫みたいなあの子がくれた大事な大事なお守りさ。黒猫が飲み込んだ錆びた鍵はあの子の部屋の鍵なんだ。中からは開かない、あの子は部屋から出られなくなった。僕が黒猫から鍵を取り返すまではね。だけれどあの子には問題なんてひとつもないんだよ。鍵なんてかかってたってかかってなくたって、ずっとずっと部屋にいるだけなんだから。部屋で遊んでるんだ。腐ったみたいな論理も大事な大事な現実もあの子には必要なかったからさ。僕だってあの子には必要なかった。あの子は部屋に一冊だけある絵本と、堆く積まれた画用紙、それにクレヨンのほかには何にも要らなかったんだ。お洒落競争も批評家気取りもまるっきり要らないんだ。それくらい、あの子は満ち足りてた。それだけの話さ。
僕だって、自己完結できる類の人間だけど、あの子くらい何にも要らないわけじゃない。僕は色々欲しいのさ。だから探しに行くんだ。未来へ行って、あの子が好きになりそうなものを探してくるんだ。あの子は特別なもの以外は欲しくないのに、まるっきり特別というものがわからないんだ。だから僕が代わりに探しに行くんだ。特別なあの子に特別なものを。
見つけたら、そうさ、鍵を開けて、あの子に言うんだ、この世界も、なんだかんだ言うけど、思ったより悪くない、ってね。そうしたらあの子はこう言うだろう、悪くないくらいなら、別にいらない、ってね。そうしたら、僕はきっと死ねるんだと思う。


みんな、ずっとずっと長生きしてください。ラブアンドピース! それから、ファックオフおーるざふぁっきんぐみゅーじっく! ありがとう!
爆音がやりたいな。畜生め。ロックンロールで死ねる奴はどこにいるんだ。