多分また逢うけれどそれが悲しいよ

いくらか前の日、夜のキャンパス、一人煙を吐き出しながら考えていた。全て清算してから、と思うのは完璧を望む悪い癖だろうか。あいつに完璧を求めすぎているよと笑いかけられたのを思い出す。逃げ出したくてたまらない。このまま逃げれば全ては打算、万に一つの可能性にかけるといえば聞こえはいいが、おそらく俺は停滞し、その一つだって捨ててしまうだろう。
ぶらりぶらりの一人旅を夢見ている。けれど、きっとそんな夜にも怖くなってしまう男だ、情けないネェ、つまらないネェ。逃げ出せ、と誰かが笑っている気がする。逃げて逃げて、たどり着いた場所で絶望しろと。逃げ続けるものはそこで死ぬのだ。全部捨てて海にいければどんなに気持ちのよいことだろうか。そこにあの子の香りを感じられればそのまま僕は海の藻屑よ、海水が肺を刺し、視界はすっと海の底、それで構わない。構わないというのに、何故僕の足はまるで動こうとしないのだ。何故僕の手はドアを開けることさえかなわないのだ。何にもいらなかったはずなのに、何にも持たず生きることを心から願っていたのに。こんなにも全て捨てたいというのに。俺には覚悟が足りぬ。
杞憂であれ。全てまやかしであれ。この不安もあの子の恐怖もあいつの絶望も! 全て! 全て消えてしまえ! なんて悲しい夜なんだろう。なんて恐ろしい夜なんだろう。


cherryの箱がつぶれました。つぶしたのは僕の指先でありました。
それは夏に差し掛かった夜のことでありました。きっと誰も知らないことなのです。
新しく箱を開けたゴールデンバットの香りは中也を思い出させて、少し泣きたくなるのです。