一日一日が晩年であった

負け犬か、と独りごちていた。よたよたと去り行く姿に覇気はなく、長い尾は丸まっている。日々是々、と書いていけば真理にたどり着くのかもしれぬが、寂しいばかりである。十の寂しさも、百のつらさも、客観視すれば俺は抱えていないのだと思う。けれど、この一抹の不安は何だ。この不安に河童が死んだというのならば、俺は何の生き物か。彼方此方を駆け回り、雨降らぬ空に吼えている。俺は存在だ。語ることで輪郭が見えてくる。吼えることで内部が燃え上がる。そのどちらをも抱えて、走るしかない。しかし、それは、いつも俺の考える中では、ゆっくりでないといけない。進むことは大事だが、進みすぎるのは傲慢だ。なんと難しいことよ。
君の死ぬは、僕の死んだ後でないといけないよ。愛する人は、俺の強さを信じてくれる。俺も同様に君の強さを信じるよ。加えて、君の弱さを僕は抱いていようと思う。数千数万数億の有象無象、無名の俺でも、それくらいは。もしかしたら、と思えることはそのとおりになるかも知れぬことだ。君よ、愛する君よ、死を思うな。惨めな未来を思うな。暗い現実を思うな。より理想的で、幸せであれ。暗いばかりの夜は泣くが良い、泣いてその身が軽くなるなら、存分に泣くが良い。口先だけの言葉で君が救われるのなら、俺はいくらだってそのたわ言を撒いてやる。だが、君を救うのは真実の言葉だけだ。それは俺の口からは出ず、君の中にぽつんとあるだろう。そこに君が至る手助けとなれば、と願う。


俺は、いつからか、俺の中にある力を信ずるに至った。同時に、それに対する猜疑心をも抱える。
必要なことだけを書けばいいのだと思う、語ればいいのだと思う。しかし、それだけを語れるほど、俺の精神は熟れていない。無駄をこなす中で、真理をつかまねばならぬ。そうして、つかんだ真理に恥じない生き様を見せるべきだ。


十五時間ほどで眠り果てて、薄暗い空に煙を燻らせている、やけに重く感ずる。尾を丸めているせいか。桜桃忌も近い、過ぎれば夏が来るのやもしれぬ。ゴールデンバットでも捧げるか。
梅酒の香りがじとりとした暑さを忘れさせる。