心のたび

悲しみ消える言葉はどこにあるのか。あの子が不安になるようなことなんて全て間違っているのだ。雨が降り出す前に決めるのだ。行くか戻るかなんて単純なことは最初から決定されている。自己意思でなく、しかし他人の強制でなく、まさしく運命と呼べる代物であるだろう、いや、使命のほうがずっと近い。どこへ行こう、もちろん君の笑うほうへ、ずっとずっと柔らかな風の吹く場所へ。そんな場所はどこにある。目的地は無いと、あの唄歌いは言う、ずっと前から無くしているのだと。ただ一言の意味を手繰らなければいけない。あの子にらぶと言った意味、東京の空は隠し通すつもりらしい。抑えている気持ちが飛び出すのはもう少し先の話だ。
本当のことほど嘘であって欲しいと思ってしまうのだ。僕は、本質的に誰をも救うことはできない。これは卑下でなく、絶望でない。本当に救われる者は、確固たる自己意思で自己を救うものだけだ。君が僕に語ったことは、全て僕は信じるよ。君が僕に言ったことは、君自身が嘘だと思ってしまっても、僕が抱えている。だから、君は本当のことを僕に語って欲しい。


月明かりの下に窓明かりはいらない。見るときは、誰にも見られないほうが良い。一人でいて、それでいて完成していないといけない。壊れたって大丈夫、誰も見ていないから。泣いたって大丈夫、誰も見ていないから。狼が軽々と屋根を越えていく。空飛ぶ狼だ。君はその背に乗ったっていいし、漆黒の体をなでたってかまわない。だけれど、君がもし邪まな男であったり、卑劣な女であるのならば、狼は君に噛み付くだろう。夜とはそんな時間だ。夜と、音楽と、cherry。燻る煙は眼球を刺す。俺は、煙の美味さを知っている。あの夜あいつらとの煙、あの人が吸っていた煙、そして、こんな一人の夜の。いつだって美味いとは限らないが、今日はまだまだ美味いようだよ。君が嫌がるならば、僕は君の前じゃ煙だって捨てるけれど、君といないときは許してくれないか。僕が歩くにはいくらか必要な香りだ。問われて、いくらか考えて、やはり必要なのだと思った。全ては、名を知らぬ貴方の問いに答えるために、自問自答からはじまる。軽々しく愛してるなんて言ってるつもりは無いんだ、僕が叫ぶのは本当に思っていることなのだから。
君の正しさを僕は証明できないけれど、君の存在を信じてやることは僕にはできる、わけもわからず思っているのだ。


あいつと、あの子が、今日は安らかに眠れることを、願う。