まやかしよ

爆音を求めている。生きていてよかったか。全て絶筆だと思って書かねばならぬのに、俺は生半可で中途半端だ。書けずにいる。書けない期間が長すぎて戸惑う。焦燥感、募る。妥協の上にどうにか成り立っている。人間は、いや、俺は、もっと真摯に生きねばならぬ。それは真摯に死に、そこで完成するためだ。あの子が俺のことを嫌いだとしても、それはそれで良いと、俺は思っているのだ。だけれど、あいつがあの子と一緒に笑うのだけは、俺は駄目なのだ、胸の奥が拒否するのだ。雨が俺の心を冷たくする。逃げ切れるものか、遺書を書くには、きっとこんな夜が適している。他意なんて無いと、これほどまやかしの言葉も無い。
全ての若者は言った。全ての本当のことを教えてくれと。全ての若者は言った。死ぬには遅すぎるし、生きるには早すぎると。馬鹿は誰だ、きっと、皆必死なのに、僕がそれをつかみ取れないだけなのだ。だけれども、聞いてくれ、友よ、あいつの言う幸せが、型にはまった希望の日々が、俺の鬱屈した感情を呼び覚ますのだ。俺はそんなもの要らないよ。俺が代わりに希望にするのは、あの子がこっそり話してくれたこと。ロックンロールは脳髄を刺し、ハイライトの煙が目に沁みる。だからこそ、もう何も聞く必要は無いのだと思う。これからの噂は、幸せごっこは、たわ言だ。自己の哲学にのっとり、正義も悪も一般論でなく扱えるのならば、これほど自由なことは無い。必要でないものをきちんと必要でないと思えるのならば、それが負け惜しみでなく、悲観でなく、諦めでないならば、これほど幸福なことは無い。真実に生きるには不必要なものが多すぎる。あの死にたがりが呻くのは、そのせいだ。なにが必要なものか。俺は、この夜に、少しだけ自由になった。自由はいつも苦痛の夜から生まれる。


どぶのような臭いの幸せなど追い求めるな。君は、外道にでも、卑怯にでもなれた! だのに、まだ君は純粋でいる。希望と真実を殺されつくして、君は、もっともっと純粋になるだろう。その時に、どうか自由であるように、願う。


理想をかなえる為には、心中できる人間に会わねばならぬ、夜をすごさねばならぬ。他のこまごまとしたことはどうだっていいことなのだ。真摯に生きる人間には、自然に同じ性質の人間が集まるのが摂理というものだ。そうだ、理想の物語を書かねばならぬ。あの子のそのままを、ありとあらゆる美しさを、単純表現で表せてしまえればそれが一番なのだが。
説明しなければわからないことなど、些細なことだ。一言で表せてしまうことの中にこそ真実はある。それは、あの夜にただ温もりを願ったように。