嘘は嘘なだけ

あの子は全部が嘘じゃなさそうだ。だけれど、真理がそこにあるかはまだわからない。自慰の後に考えたことは全て理想だ。快感と、酒と、cherry。煙が美味くなくてどうにもまいる、何のせいなのだろうか。満ち足りていないからか。煙が美味い夜には、いつだって突き抜けた理性があった。神をも殺せる気概が。
嘘ばかりついている。楽しいよ。幸せだよ。可愛いよ。面白いよ。全部嘘だよ。
俺は何にも楽しくない。あの子も俺も幸せじゃない。あの子のしぐさは可愛いと思われたくてそうしているだけだ。お前はちっとも面白くない、不味い日本酒くらい最悪だ。
あの子の話を書こうと思った。けれど、書けば書くほど欺瞞に満ちる。違う。あの子はこんなことを考えていたんじゃあない。あの子はそんな理由で怒らない。あの子はそれくらいじゃ泣かない。あの子が泣くのは、いつだろう? わからない。僕はちっともわからないのだ。
残念な気持ちだ。俺は、ずっとこんなことがしたいのではなかった。あいつの声だって、悲痛なのだが、僕のところにはちっとも届いちゃ来ない。君は、きっと、あの夜の続きがしたいのだと思う。ずっとあの暗闇の中にいて、あの月明かりばかり思っているのだろう。多くの人間は、いや、全ての人間はあの夜を脱した。僕だってその例外ではない。興奮も激情も、冷たさだってもう帰ってこないのを知っている。僕は僕のことをする。君は君のことをする。けれど、君はまだあの夜なのだ。僕にどうしてほしい? 褒めてほしい? 笑ってほしい?
笑わないでくれ。
夢追い人は夢に死ぬ。それは、ライ麦畑の端から落ちて死ぬように。きっと捕まえ人はどこにもいない、いたとしてもこちらなど見ていないのだ。誰が僕の部屋に来るの? 誰が君の部屋に行くの? 誰も来ない。誰も行かない。一人でよかったと少しだけでも思ったのならば、もうずっと一人でいるしかない、だから、一人でいるのだ。


空を見なくなったら、完成なのだね。宇宙律と同じ場所に、四季則というものがあるとすれば、それを捧げる。読み方をかけてあるんだ、上手いものだろう、ね。こちらの夜は暗くもなんともなく、薄明かりのまま過ぎていく。夜を肴に、とはいかないようだね。怒りは確かに、やるせなさは実際に、胸の中を焼くけれど、殺したい奴がいるわけじゃない。夏を待っている。ただ蒸し暑く、死ぬのにはまるで適さない時間を。汗だくで死にたくなんて無いからね、ただそれだけで、だから、春はいけないよ。春は何とかして越さねばいけない。


誰かいい人に逢わないか、と夜を歩いている。軽率になっているし、考えなしで動くことが増えた。悪いことばかりではない、という声も聞いた。だけれど、やはりこれは悪いことなのだ。