アンチデート

この街は雨ばかりだ。
幸せな日は、けして晴れた日ばかりではなかった。悲しい日にいつだって雨が降るわけでもない。この街は雨ばかりで、よくわからぬ日々が続いている。今までの俺にはなかったような日々で、全てが心地の良いわけではないが、生きていくには不自由していない。あの子のために書いていた時代は終わった。けれど、薄っぺらな言葉を肯定するわけじゃない。人間存在は、己の愛するものにかけては真摯でなければならぬ。俺は軽薄な心を憎むよ。本当は楽しくなんてないのに楽しそうな顔をするくらいなら、その笑顔のまま首をくくれ。大事なのは楽しもうとする意思だ。全てはきっかけを中心に回っていく。何気ない一言が俺を生かし、何気ない一言があの子を殺す。可愛いあの子は可愛く笑い、笑顔はときに僕を刺す。
もうすぐ五月になる。喧騒のうちに全ては過ぎ去り、静寂が訪れる。ラララ、と歌う声も嘘になる。まったく本当のことを歌っていたはずなのに、時がたてばそれは白々しく聞こえる。まだ時間はある。死ぬしかないのだと思う、と彼は言った。死ぬ他になく、生きていても無残で悲惨、つまらないものだと。だけれども、白々しくも、彼は生きていて、それから歌を作るのだと思う。こんな夜にできる歌は、まるっきり陽気なほうがいい。陽気で、空元気で、やたらに死にたくなるのだ。そんな歌がいい。文学も、こんな夜には、そんな。ずっと死にたくていることができるのだと思う。どちらに転ぶでもなく、ゆうらり、ゆらり、細い道を歩いている。街灯は切れかかっているから、足を止める。角を曲がっても、何も起こらない、そんなことを思いながら、曲がると、あのコインランドリーに、あの子がいる。二人で、回るのを見ている。そんな夜だから。
でも、あの子の隣にいるのは僕じゃなくて、そんな夜でもあるの。


ミネストローネに冷凍うどんを入れて食らう。こういう食べ物だと最初から思えば美味い。食後のcherryはもう、あの人の香りはしない。