ポルタメント

未だに音を求めている。俺はずっと、音のなければ生きられぬ脆弱な存在らしい。音は消える。喧騒の元に全ては過ぎ去り、後には静寂のみ残る。何度も経験し、またこれからも体験していくであろうことだ。大きな音を聞く。あの場に合った偽善ロックを俺は許さない。しかしジャズはいいね。アッパーベルのシルキーがね、格好よくてよかったな。色のついた楽器がほしいな、マーチンコミッティーの青、彫刻が入っている奴、あれが。見た目ばかりの男だからさ、鳴らせないくらいでちょうどいいだろ。何分お金がないけれど。
そうだ、色といえば、髪が茶色になった。浮ついた気持ちが俺は一番嫌いでね、けれども、何かの転機になるだろうくらいの気持ちで。あの子は長いほうが良かったと言う。あいつは今の方が似合うよという。きっと、どちらも本当でどちらも大切なのだと思う。夏が過ぎたら、また長くしてみるのも悪くはない。
暑いのは良くない、しかし、首筋の日に焼けるも良くない、等価だから仕方のないけれど。


いくらかの日々が過ぎた。これからを思わせる日々が。異質な出来事も繰り返せばいつかは日常になっていくものだが、忘れてはいけないこともある。全てを受け取って、全てを捧げるだけだ。俺の愛する人々、また、俺を愛してくれる人々に。美しいと思った言葉は、何度でも言わねばならぬと思う、それは、愛してると何度も言わねばならぬと同じように。


壊して見せろ。君は全て憎いのだと言った。狂犬のように噛み付いて見せろ。狂犬の時代は終わったけどね。可哀想な犬がいるとするならば、それは君ではない。本当に可哀想な犬というのは、一片も信じられなくなった生き物を言うのだ。君は、まだ疑ってはいるが、本当の愛というものを心の奥底で信じ、また、それが自らに訪れるのではないかという淡い期待を抱き、ぼんやりとした幸福を求めている。それならばまだ大丈夫だ。だから、君は吼え散らかしている場合ではない。同時に、噛み付く時間でもない。好きな人がいるならば、死ぬのはその人が死んだ後でも悪くはない。
実篤の詩集を買う。詩というよりは、散文に近い。しかし、異様に響く。一日に数篇読み、眠る。栞代わりにチョコレートの包装を挿む。