届かない

変われなんてしない、貴方はずっとそのままで、まわりに苦笑いで歩くしかない。満ち足りないとして、何も見つけられないとして、切望していたとしても、何も与えられることはない。子供のように頑是無く、ただ壁を見つめているしかない。これから僕が勝鬨をあげ、貴方がその影に重なったとしても、貴方は変われなんかしない。ずっとその、陰鬱なまでの日常とすごすしかない。葉桜を見るほかに報われることはない。曇りの葉桜は良い、俺は愛するよ。鬱々としていて、それでいて生きようと思える、鋭さとともに圧力がある。今は、ビールでもセックスでも、パスタをゆでている時間でもないんだ、これは彼の人に、愛のために。多くは語らぬ、いや、語れぬ。言葉がないからだ。誰も君の事引止めやしないし、誰も君の背中を押さない。これはそういうルールの真剣勝負だ。だから、大事なのは、生きることだ。鬱々と生きる中でも、自覚的に壁を殴ることだ。本能に任せるな。理性で、論理で、壁を殴れ。壊れない壁があるとすれば、それは自らの拳を壊すためにある。痛みが実感をくれる。絶望しているリアルをくれる。忘れたかったことをすべて思い出す。嫌なことがすべてはっきりする。折れた手で殴りつけろ。腕一本くらい食われたって良いんだ。
それから、痛いって言ってくれ。俺に言ってくれ。それから幸せになろう。たとえ貴方が死にそうでも、俺と幸せになろう。何故ってね、俺が貴方と幸せになりたいからだよ。くだらないことで幸せになりたくないわけ。酒かっ食らってさ、それで馬鹿騒ぎして、それで幸せだって、つまんないと思いませんか。馬鹿になるために酒はあるんじゃない。狂うためにあるんだ。わけわかんなくなって、とても悲しい夜を過ごした貴方をさ、慰めるために、あるんじゃないのかい。全部貴方のなのに、ずる賢いあいつが全部持っていくんだ。でもね、あいつが持っていけるものなんて大したものじゃないよ。貴方が俺にくれたものはね、絶対にあいつが持っていけるようなものじゃないんだ。気持ち悪いぐらいに月がきれいな夜に話してくれたんだから、煙の美味かった夜に話してくれたのだから。
あの夜を殴りにいこう。美しい夜さえも乗り越えに。


君の美しさを殺した誰のことだって許せはしないし、君の愛を受け取らなかった僕は君に殺されるしかないのだと思う。けれど、君は僕を殺さなかった。合理化された正義は単なる欲望だ、だから、この言葉は欺瞞にしか過ぎぬ、わかりきっているさ。けれど言わせてほしい。
言わないけどね。
へ、欺瞞だらけだ俺は。