平和なのに

そう、例えばあの子の全てを知りたいと願うこと。あの子があんなドブ野郎を好きになんてなって欲しくないということ。あの子に俺を見てもらいたいということ。あの子の髪が欲しい、あの子の指が欲しい、あの子の爪が欲しい、あの子の鎖骨が欲しい、あの子の手首が欲しい、あの子の足が欲しい、あの子の脚が欲しい、あの子の目玉が欲しい。あの子の全てが欲しい。
征服欲にほかならぬ。
拘束したいだけだ。単純化したいだけだ、複雑で、理解できないことを、なんとか減らしたいという渇望。子供の感情。俺は、自らの自由を誓うと同時に、あの子の自由を信ずる。嫌だな、それでも。素直にはそう思う。あの子が俺の知らない奴の性器を咥えるというのなら、それは俺の死ぬ理由となり得るのだろうか。あの子が俺の知らない奴に処女を捧げるというのなら、それは俺の死ぬ理由となり得るのだろうか。
手をつなぐのを想像するだけでも死にたくなるっていうのに!


他人を心配するそぶりを見せることで、なんとか自分の優位を保っている。別にどうだっていいと思いながら、死んでは駄目だよと歌う。そんなものは偽善にもならぬ。劣悪だ、醜悪だ、身震いする。優しい自分に会えたかい? 真実の愛は得られたかい? それで自由になったのかい? 日常は死に、観念だけの会話が生きる。悪人にもなれず、善人にもなれない。俺は中途半端だ。
へ、囲われたままだ。
昼のうちは酒にまぎれて夜を待ち、煙と共に夜を過ごす。朝を迎えるまではずっと考えている。


安いウィスキィをコーラで割って飲む。やはり昼間からストレート・ノー・チェイサーなんてわけにはいかないね。一日が終わる。スパゲティをゆでて、ホールトマト缶もひき肉もあったが、面倒なので出来合いのミートソースをかける。半分ほど食べてから、やはりミートソースくらい作ればよかったと反省。出来合いも美味いのだけれど、やはりね。生のトマトからは作ったことがないのだけれど同じようにやればいいのだろうか。