あなたのことだけは本物と思わせてくれ

ただ壊れたいだけ。一時たどり着くには、壊れるしかないから、ただ壊れたいだけ。屑が一人で焦って落ちる。滓が一人でわめいて叩く。馬鹿が終わる。馬鹿が終わる。夜は続き、馬鹿が終わる。たどりつけない。覚えちゃいないんだ、何も何も、美しかったことも全て忘れてしまうんだ。美しい人も死んでしまうんだ。今日ここで死んでも構わないなんて、常日頃、普通の顔して言ってやらねばならないというのに、俺はただ壊れたいだけなんだ。綺麗なことなんてひとつもないってまくしたてたい気分なんだ。俺は弱い男だから頼らせてくれって泣きたいだけなんだ。ロックンロールも文学も死んだって叫びたい気分なんだ。なんだ、俺が死んでるだけなんだよ。刺し殺したい気分なんだ。優しい俺を殺せ。自己欺瞞の俺を殺せ。死にたがりでいつまでも死なない俺を殺せ。有象無象の俺を殺せ。扉は開いている、鍵はかかっていない。出て行って殺せばいいのに、それさえもしようとしないんだ。足なんて震えていない、刃は研がれている。
傷ひとつない俺が、傷だらけの奴らを見て笑う。僕は今あの人の残像を追っています。あの人に頼るのは駄目なんだ、俺が弱いのがわかっちまうから。あの人にだけは虚勢を張っていたいんだ、俺はロックンロールのために生まれてきた男、俺は文学のために生まれてきた男、かっこわるいばかりの言葉だけがつながりなんだ。何でもできる僕が、何もできないという女の子を見て自由だと言います。何かできるだろなんていつだって言う癖して、俺は何もできないと俺は言います。馬鹿が終わる。酒に何の意味があるのか。煙に何の意味があるのか。こんな夜は意見なんて要らない。ただ答えだけが欲しい。答えをくれると言ったあの人は、ただ美しく生きているか。何か救えるわけじゃない。何が伝説だ、何が物語だ、嘘もまやかしもごまかしも駆け引きもいらない。ここからはじまるのだと息巻いては、進みもせずに終わっている。救われないんだってリアルのまま扱えるわけがないだろう。俺は救われたいんだ。リアルをリアルのまま扱えるものか、そんなことができるのはごく一部の、本物だけだ。逃げるんだ。逃げ切るんだ。あの通りを曲がりきったところで、あの坂道を登りきったところで、振り切るんだ。真顔でいられるものか。肩の上下するほど息があがる。何もかもに意味があるなんて言っていられるものか。周りの、ほとんど全ての事象は無意味となるのだ。どうせ死んじまうから生きないなんて言うのか、俺は言ってやるよ。俺は言ってやるんだ。あの、わかりきった顔してる奴に言ってやるんだ。あの、自信に満ちた顔の奴に言ってやるんだ。俺はね、どうせ死んじまうんだから、それだから真っ当に生きるなんてうんざりだって言ってんだ。死なないと駄目だ。一度や二度や、死んだ夜を過ごさない奴の言葉なんて信じるものか。俺は死にたいわけじゃない。死ぬつもりもない。だけれど、死んだような夜を過ごすだけでは駄目なんだ。俺は、突き抜けて、ただ脳髄をかき回すような、悲しみを、苦しみを、ただ腹の奥にからとりだして、それで首をくくるんだ。積極的に俺は首をくくるぞ。ドブ野郎、糞。どうせ死ねやしないんだ。俺は意気地なしだ。俺は心中するような女を見つけていないんだ。本物でないと駄目だ、一緒に死ぬ価値のある人間は、紛れもない本物でないといけない。
昔、女の子が俺に言いました。死にたいのだと言いました。俺は、その時、何も解決できないのだと悟ったわけです。そして、その女の子は死なないのだろうな、とも思ったわけです。俺はわかってやらねばならないと、ただそう思っていることだけを伝えねばならぬと思ったのです。わかることのできるかどうかは問題じゃない。わかりたいと思うこと、同時に、それを伝えること。それが全てなのだ。それが全ての世界だったのだ。しかし、時代は終わった。馬鹿は終わる。
涙ながらに話した言葉は全部本当だったって言うのかい? 嘘はなかったのかい? 今は確かに言えないのだ。伝説なんて、奇跡なんて軽々しくは存在しないんだ。あの子は今日はどんな気分なのかな。幸せに暮らしているのかな。それとも絶望の淵なのかな。男の子と一緒にいるのかな。女の子と一緒にいるのかな。それとも一人で煙草でも吸ってんのかな。わかんねぇな。俺はもうどうしようもなくて、ただ頼りたい気分なんだ。きっと、俺が少しでも傾いてしまえば、愛する人々は俺のこと救ってくれるのだろう。馬鹿になんてしないだろう。それが信頼なんてくだらない言葉、それが愛なんて嘘くさい言葉。俺は信じているんだ。だからこそ、俺は、傾いてしまえないのだ。俺はもうどうしようもないけれど、頼りたくない気分なんだ。二極は対立するのでなく、同じ場所にそしらぬ顔で立っている。何が本当か、何が本当か、そんなもの全部本当で全部嘘なんだ。考えること、やめたさ。
それでいいってあんた、本当に言っているのかい。全部このままでいいって、変えたいんじゃなかったのかい。だったら、全部変えればいいって、本当に言っているのかい。
馬鹿は終わる。