野良犬リアル

喉が焼け付くようなリアルを俺にくれ。ぶっ壊れて、ぶっ壊して、狭間の狭間、隙間の隙間、行間の行間、その向こうから見える現実をくれ。全てを受け取って全て捧げるだけだ。新しい嘘は無駄になるだけ、古い思い出は重荷になるだけ、全部捨てよう。縛られていることで走れる夜もあるが、この頃は、縛られることにむず痒さを感じるのだ。繋がれた犬は死ね。野良犬のように走るだけだ。思うのはcherryの美味さだけ。足りない、まだ足りない。馬鹿がひとりで呻いている。夜を殺せと呻いている。死にたい夜は過ぎた。歪んだ愛も過ぎた。足りない、まだ足りない。無かったことにするのはやめろ。リアルをリアルのまま扱え。襲われてなんかない、殺されそうなんかじゃない。
全てを愛する必要はない。それに、どうやってもそんなことは不可能だ。全てを憎む必要はない。それに、そもそもそんな怒りは持ち合わせていない。俺は、しかし、全てを愛し、全てを憎む、瞬間瞬間で立場は入れ替わり、相対的に偽善者となり、偽悪者となり、あるいは当事者となり、傍観者となる。ひとつの立場の男に惹かれるのはこういうときだ。固定されることが全てではないが、確かに羨望を持っている。かっこいいネェ、美しいネェ、悩みこむ姿も様になっているじゃないか。固定の位置を前提とした苦悩は美しい。根無し草は悩むことを許されない。ゆうらり、ゆらり、立ち位置を変え、ひらりひらりとへらへらと。俺はどこかで、一度、止まらねばならない。そこから進むかはまたそのときの話だ。主観の攻撃力は何より大事だが、刺してばかりでは傷だらけだよ。あのドブ野郎を殺したいわけじゃない。

「本物だよ、あの人は。だいたい普通じゃない。どこか俺なんかとは一線を隔してるよ。あの人はリアルだ、言うなればね。リアルをリアルのまま扱える人だ。と、ミーさんの話をしてるんじゃなかったね。とにかく、リアルをリアルのまま扱うだけの度量と覚悟が無いのだったら、嘘八百でとりあえず突き進むしかないんだ。辛いことも怖いことも放っておいて、いつかは拾わなきゃならないんだけど、棚上げして進むのが大事なんだ。一歩も踏み出せないなんてことになる前に、取り急ぎ、ね」


まだ向こう側へ。