走るな止まれ

野良犬のように走り出したくてたまらないのだ。呼吸をするように噛み付き、瞬きをするように切り裂きたい。暴発に関わっている因子は大量にあるが、ほとんどの場合、そのほんの数個が大きな影響を与えている。荒れたくてたまらない。壁を殴り、夜に吼え、怒りに縛られている、そんな夜がたまらなく恋しいのだ。気持ち悪い。おかしいかね、何もおかしいことなんてないよ。いつだって俺は死にたくなんてない死にたがりだ。偽悪者にもなりきれぬ役者だし、絶望を希望と同意義で使うことに何の疑問も見出さない。ハロー、君は何? 殺されたくなんかない殺されたがりかい? だったら僕の隣に座れよ。目標はない、出かけもしない、何も見ない。ただ、座っていよう、わかった顔して座っているんだ。見ようとしても、聞こうとしても、何もわかりはしないから! ここら幾日か、幸せな顔をしすぎた。独りよがりの楽観主義者なんて、嫌いだよ。誰も誰も誰も誰も俺を救いはしない。何も何も何も何も俺を救いはしない。救われた気分になるだけだ。どこかで、あぁ、これは違う、俺はこれでは駄目だ、気づいてしまうのだ。騙されたままで死ねるのなら、嘘も嘘ではないね、本当のことになる。だけれど、俺は死にたがりなだけだからね、残念なことに。

「あの子が俺のことを好きといって、それからすぐに殺してくれればな。疑ったまま生きるのなんて馬鹿馬鹿しいよ。愚か者のすることだ。俺は愚か者でありたくは無いよ」
「だったら、あの子を信じたら? 簡単なことじゃないか」
「俺は人間は信じないの」

俺は屑だ。俺は屑だ。俺は屑だ。二度三度、夜に語る。ロックンロールが流れている、音が俺を劈くが、俺は屑でいる。俺が屑でいるとき、音楽に意味はないよ。俺は、この屑の俺を救ってくれるものをずっと探している。だが、救って欲しいと叫ぶだけは気持ち悪いのだ。屑人間が我が物顔で、辛いだの、怖いだの、恐ろしいだの、構ってほしいだけだろ、おこがましいよ。屑は屑でいろ、ゴミ捨て場にでも転がっていろ。ロマンチックなばかりでいられるものか。昨日月夜に泣いた男が、今日は性器を握っている。久方ぶりの自慰はいけないね、手を汚すたびに消えてしまいたくなるのだ、殺すたびに殺されている気分なのだ。
俺ぁいちぬけた、ってさ、別の街には新しい恐怖が待っているのだ。
切実でない。乾燥している。どこか客観的である。それ故に、切っ先はいつもより深く刺さる。条件がいくつか足りない、開始のピストルはまだか。

「幸せになりたいな」
「夢見んな童貞」