駄作

ちゃんとやらないと、きちんとひとつずつだ、わからなくなっていくのに、わかることは、急にたくさんか、ひとつも増えないか、どちらかだ。血は流れていない。人の話など聞きたくは無く、人に話などしたくは無い。飯に意味は無い。睡眠に意味は無い。文章に意味は無い。思考に意味は無い。壁に意味は無い。痛みに意味は無い。音楽に意味は無い。cherryにだけ、意味がある。
cherryが切れた。
意味は、無くなった。喪失。浮かんでいる。沈んでいる。同時に流れていく。感情は細長く伸びる。目に付くもの、触れるもの、鼻につくもの、聞こえるもの、瞬間瞬間、刹那刹那、過敏に感知する。理解をする。溜め込んでいく。だけれど、反応はしない。泥のようでいる。貝のようでいる。
動くものは何だ?
外は怖い人がいっぱいだ。出ない方が身のためだ。これは真理だ。あの子が言う、囁いている、笑っている。俺は泣いている。空は知っている。地面は知っている。世界は揺れている。ジグザグ、ジグザグ。時計は止まっている、否、止めたのだった。カチリ、コチリ、音が恐ろしいから。
血は流れていない。

「自分が救われたいばっかりで、他人のことなんかちっとも気にしちゃいないのに、他人に自分重ねてさ、君はちっとも悪くない、なんて、卑怯もいいとこだろう? 君は自分が間違ってないって言いたいだけだ。自分は悪くないって認めて欲しいだけだ。そんなために僕を使わないでくれよ」
 ごめん、と俺は言った。
「ごめん、全部俺が悪いんだ」
「それだってそうさ」美しい少年は言う。「そうやって、話を終わらせたいだけだ。自分が悪いなんて一ミリも思ってないくせに。全部被ったフリしてるのが一番楽だからだよ。胸を張りなよ。胸を張って、それから、苦しみなよ。苦しみたくないために全部ひっ被るのは嘘だよ。そんな馬鹿なことしてたら、ゆっくりさ、ゆっくり苦しみは増えていくんだ。一度くらい、一度くらい、で、自分を騙しちゃ駄目だ」


全肯定してもらいたいのだと思う。だけれど、全肯定されることも恐ろしいのだ。俺が間違っていることは、俺自身がようく知っている。間違っていることを、笑顔で肯定されるのは、いたたまれないよ。馴れ合いを否定してはいけないが、そこにつかりすぎると一人に戻れなくなる。あの喧騒の後、あの高揚の後、一人でいられなかったではないか。ただし、この場で壁に張り付いていることは、停滞でしかない。