嫌いだな、嫌いだな。

 夜は寒い。
 冬は寒い。
 だから、冬の夜はとても寒い。
 そういえば、あの子の名前もチカといった。漢字も感じも違うけれど。
 何気なくポケットに手を入れて、携帯電話を取り出す。
 出てくれよ、と思いながらかける。
 三度目のコールで出た。
「めずらしーじゃん。電話してくるなんて」
「おうおう。なー、ちーちゃんな、最近どーよ? 楽しくやっとる?」
「うわっ、何それ! 突然電話かけてきて話すことないんかい! 話題なしか! きもっ!」
「うるせぇ。皆が皆、用のあるときにだけ電話すると思うなよ! むしろ話題があったとしても最初はこういうなにげない感じからはいるかもしれないだろうが!」
「じゃあ話題あんの?」
「ねぇよハゲ」
「うわっ。初っ端から逆ギレっ。かっこわるっ! 女の子にハゲとか言うなよ! いっみわかんねー! 男のくせにー! お前がハゲろ! ハゲって最初に言った奴がハゲろ! そして二度と人にハゲって言ってはいけないことを身をもって思い知るが良い!」
「ほんとにうるせぇなお前はよー。キャンキャン喚くな」
「何や、子度は犬扱いかっ! あーりーえーねー、この男あーりーえーねー! ワンワン!」
「まー、元気そうで安心したわ」
「きもっ! 何かその言い方無性にわーってなるわ! もう、あんたに? あんたごときに? 見下されてる感? わーっ! なんかさっ! わーっ! きもっ! 死んじゃえばいいよ!」
「誰が死ぬか」
「お前だワン!」
「あーはいはい、死にますともさ」
「え、いや、早まんなよ! 死ぬなよ!」
「あ、うん、死なねーけど」
「わーお!」
「おう」
 やっぱりこいつはいい奴だ。喋繰る時は脳使ってないから、馬鹿みたいに見えることもあるけど、頭だって悪くない。
 俺は携帯電話を持ち替える。凍えた指先が、危うく取りこぼしそうになる。
「しっかしさみーわ」
「あれ、今どこ? 外にいんの?」
「海」
「そりゃ海の中は寒いわ! ってそのまま入っていったら死ぬわ! 気ぃつけろ!」
「砂浜」
「砂浜か。びっくりしたわ! んでもロマンチスト気取り? こんな季節に」
「センチな気分なわけ」
「きもっ」
 それから数秒の沈黙。
 携帯電話の向こうから声がする。
「今一人やんね?」
「あぁ、一人。ひーとーり」
「行くわ。会って喋ろ」
「もう電車ないんじゃない?」
「バイク」
 俺は詳しい場所を告げた。
 こういうとき、来ないでいい、と言うのも本当なのかもしれない。
 けれど、来て欲しいと願った。
 そう思ってしまった。


ぽちぽちと打つ。意味なんてない。完成させるつもりも無い。放棄しているだけだ。現実を見ていないだけ。嫌だな。嫌だな。やめてしまいたいと切に思う。集まったせいかな、元々一人だったくせに、一人なのが嫌なんだ。誰かがいればな、誰か、好きな人が、俺の少しでも近くにいてくれればな。
いるんだ。近くにいる。確かに、あの人たちは、近くにいると言ってくれる。僕はそれがわからない。僕の力が足りないせいだ。
メールでもくれば、少しは変わるのかもしれない。変わらないのかもしれない。君は変わっていく。君の中の僕も変わっていく。僕は変わっていく。でも、僕の中の僕はちっとも変わらないままなの。ずれてんだな。それが悲しさの源なんだ。夜が悲しいなって、いつから思ってんのかな。解決法なんていくつも見つけたはずなのに、ちっとも前進しない。
話したいと願うけれど、迷惑なんだろうな、手が震えて仕方が無い。こういうとき駄目なんだ、俺は。


あの、冗談みたいだけど、またmixiにいるんで、何かあれば左側から。なにとぞ。