無題

朝起きて、世界が、手の中で景色が、脳の中で残響音が、スローモーションの様に消えていくというなら。例えば僕が死んだらそっと忘れて欲しい。何だってかんだったって、どうしようもないんだ。考え考え、思い出すのは唇と汗。堂々巡りの極地に立つ。不誠実なのは良くないよ。考えなくったってわかるんだ。俺は駄目な男になっちまうのかな。わかんねぇな。わかりたくもねぇやな。今度こそ、俺は悪い男だね。ご都合主義の言葉はもう終わりか。言えば言うほど嘘になり、吐けば吐くほど欺瞞に満ちる。
感情的にやってやりたい。とかく感情を欲している、いや違うね、感情の開放を望んでいる。魂の放出と、理性の破壊。俺は俺でいるのが嫌になった。これから数時間後、数日後、あるいは数ヶ月、数年後も、俺は俺でありつづけているのだろうか。俺は俺が嫌で仕方がないよ。静かな中から、やんわりと熱が感じられて、一気に燃え上がるような奴がいいんだけどな。気持ち悪いばっかりだな、俺は。例えば君が死んだら、僕は安心すんのかな。俺は、笑ってんじゃネェと思う。俺に。あいつらに。あの子に。俺に。俺に。俺に。俺に! 笑ってんじゃネェ! 笑い声はどこからだ! 屑野郎。誰が笑っている? 誰が俺を笑っている? 風の音が聞こえる。窓の外は闇ではない。何かが俺を笑っている。そこで俺を殺そうとしているのは誰だ。俺は俺自身か。
わかんなくなっちまった。まるでわかんねぇ。好きじゃないのか? 馬鹿野郎、中学生かよ、糞ッタレ。何が俺の足を進める? 何が俺の髪をひく? 振り返らせようとする手は誰だ、前を向くようささやく声は。
誰か俺を知らないか。このあたりを歩いていたはずなんだが。
殴られてぇって思ってんのかな。殴られたくなんてねぇぞ畜生め。どうしていいかわからねぇよ。家で布団に包まってじっとしている。


されど、俺はまだ生きている。
仕方ねぇよ。俺がいたって仕方ねぇよ。俺ごときに命なんて勿体ねぇな。俺とあいつとはたまた君と、皆ほとんど同じだとあの唄歌いは言う。馬鹿馬鹿しくてやになるよ。俺は屑だ。わかってねぇけど、まだ俺は俺の一部しか見ていないけれど、そこは十分気持ち悪い。あぁ、俺の見えていない部分はどれほど気持ち悪いというのか。とにかくね。


気持ち悪くなっちまった。
人が、というか、関係が。俺は人と接するのが気持ち悪い。
俺は理想しか見てはいなかった。
俺は理想しか見たくなかった。
だから、ずっと馬鹿のままだ。
現実を見ろ! 現実はここだ! 俺は綺麗なままで生きていられるわけじゃねぇぞ! 俺はもう汚れちまってる。これ以上汚すか、汚さないか、全部俺が決めるんだ。怖いな。怖いな。怖いな怖いな怖いな怖いな怖いな。あぁ、子供だ。気持ち悪いくらいに子供だ。
馬鹿野郎。
懺悔じゃねぇかこんなもん。
腹の足しにもならねぇぞ。