愛しき音

あのかっこいい野郎が俺に音楽をくれると言うので、幾日かそればかりを考えている。六弦を持つと顔が変わる、生き方が美しい奴なのだ。あいつと音楽をやるとそれだけでいつだって燃えちまうんだな、俺は。爆音でやる方程式が一番あっているとは思うがね、あいつとならば、音の静かな中でも凶悪なものをやれると思うのだ。鋭さも泥臭さもすべて内包してね、あの苦しい顔をしている子の夜をひっくり返せるような、そんなのをやれるような。
ロックとは違うんだろうな、カントリーなのかな、ジャンルなんてどうだっていいか。ペダンチック野郎にはうんざりしていたところだから。


より内省的に、より簡潔になっているのかもわからぬ。変化のない、閑散とした暮らしかと思っていたのだが、どうやら俺はゆるりと変異しているかのようだ。急激な変化も思えぬほどに衰弱していたのかもしれぬが、それは考えたくもない。何時も貶してさえいるが俺は俺のことを信用している。俺は死なぬ。俺が死ぬとすれば、恐らくそれはぼんやりとした不安によってのみだ。そこにいたるまでの道程は、そこらじゅうに転がっているが、完全に拾ってしまったことはない。恐る恐るつつき、こねくり回し、中身を見て絶望するだけだ。生きることに飽くのはまだまだ先だ。嫌になるにはもう遅すぎる。与えられた素晴らしいものを、いくらか消費し終わってからの話だよ。誰かのために死んだとて、何も美しくなどないではないか。殉死だの自決だの、馬鹿馬鹿しいったらないよ。死が矜持を守ることたりえるなど、たわ言もたわ言だ。
死の話などどうでも良い。俺は死なぬ。けれど、俺から発信されるもの、あなたに届いているか。あなたは死なぬか。あなたが死なぬならば、俺はそれでいいのだが。
あの子と、あの美しい人と。決別をした日から始まっている。さすれば気づかぬうちにでも、一旦終わっていたのかもしれぬ。ならば、始めるしかなかったではないか。延々と巡回する論理、卵でも鳥でもどっちだっていいよ、俺はそれよりも恐竜が鳥になった理由を知りたい。


俺も俗人なのだ。軽蔑したならばそれでも良い、だけれども、嫌にだけはならないで欲しいのだ。貴女はいつだって美しいからね、俺はいつだって貴女のことが好きなのだ。