CITY

嘘くさい声がする。喧騒の中から響く。聴けば苛立つ。ぶつぶつと呟き続けている。疼くのは脳だけでなく、腹の奥、指先、性器、肋骨の上。落ち着いているのは眠っているときばかり。だのに、大人しく眠っていることができない。

 目玉がころころぽたんぽたん。一つ落ち二つ落ちして、まっすぐ物が見えなくなった。好きな人からのメールもきちんと読むことができない。少しだけ向こう側、自転車で行くには少しだけ遠い場所に、僕の好きな人がいて、そんなことはどうでもいいの。
 メテオ。隕石が落ちてきて地球が滅びます! アメリカは明日で、日本は明後日です。それなら良いのに。そうなってしまえばいいのに。ゴウゴウと音を立てて落ちてくる火の玉見ながら、「あっちーなー」自転車に乗ってひたすら東へ。電車も飛行機もきっと動かない、みんながみんな、好きな人の下へ自転車で。それでも、もしかして、好きな人が家で待っていなかったら? 好きな人が、別の人の家へ自転車こいでいたら? 急がなきゃ。好きな人が出かける前に、僕の方がもっと好きだよと言うために。
 嫌いな人から貰ったのに、2GBのnano、好きな曲しか入らない。


 あの人がプラスチックのおもちゃなら良かった。僕が本当にそれを愛せたなら、きっとその方が良かった。「まだ好きだよ」「ごめん」それならそんなこともなかった。「結婚したい、まじで」「いや、意味がわかんないから」違う。これはそこそこ良い記憶。笑ってたから、良い記憶。好きです、と伝えたことが、二人しかない。
 だから死のうと思った。
 電車で隣に座った人が僕の運命の人ならば、僕はそれでいい。そうでなくてはならないのだ。それでもそうではない。そんなことは起こりはしないのである、このいかがわしいワールドでは。違う。僕には起こりえないだけだ。だから、死のう。と思ったのだが、俺は生きていても死んでいても到底イケメンではない。手に持った空き缶は到底俺ではないのと同じように。これ、空き缶。おれ、俺。空き缶は自分から死なない。捨てられる前にリサイクルされろ。リデュース、リユース、リサイクル。一つ目と二つ目、どっちが先だったかわからない。女の子はかわいいけどさ。だから、生きてしまおうか? 思いのほかあっさりと暮らせるに違いない。


 生きているのがつらいのでない。死んでいるのがつらいのでない。生きていけぬからつらいのだ。死んでいけぬからつらいのだ。嘘。面倒なだけ。
 つらくなんてない。


 僕の自転車は風のように速く走っているというのに、車車車車車車車車車車原付車車バスバス車車車車タクシー車車車車車車車車、横を通り過ぎていく。畜生。キーコキーコ、それどころか三輪車が抜かしていった。宇宙まで行きたいって言うんじゃない。中国にもロシアにも行きたくない。あの人の家に行きたいのに、足が全く動かない。ゴロゴロ、ボロン、グャン。右足が取れて、タクシーに轢かれて、潰れた。タクシーがペッカンペッカン、ハザードつけて路肩に止まって、おっさん出てきた。「いやー、ごめんごめん! もといめんごめんご。これ、君の足?」「そうっす。でもいいんすよ、もういいんす」半笑い。「もういいんすよ」
 帰ろう。
 家について、目玉もしっかりはまってる。足もなんもかんも正常だ。そんで、好きだった子からメールが来ていた。『最近どうよ?』畜生。メテオ。