胡椒

な、ところで、ミルクセーキ作った後の卵白どうしよう? 焼いて食う以外にないよな。ミルクセーキと、卵黄抜きのハムエッグ、胡椒大量にかけてさ。


今日も逃げ出した。昨日も逃げ出した。時系列順に並べるんじゃなくて、今の俺の中で優先度の高い事柄から。朝起きて、晴れていて、道を猫が走っていて、あぁ、駄目だ、思った。繋がりが、安易な馴れ合いが、偽善だらけの言葉が、死骸だらけの風景が、腐りきった音が、嘲笑交じりの声が、怖い。俺のいつもしていることなのだろうが、俺がいつも振りまいているうざったさと同じもの、腹立たしさと同じ物に他ならぬのだろうが、怖いのだ、恐ろしいのだ。家を出て、しかしどうにもたまらず、部屋に駆け込む。耐えられず、脱ぎ散らかして、毛布の中。駄目だ。駄目だった。耐えられない。
弁解するつもりは毛頭ない。全て俺の一存で、全て俺の責任で、何もなく何もない。視線を感じる。あらゆる生命、あらゆる無機物の視線が恐ろしい。いつも通りで、俺はそれに揺られ、現状の質を一段落とし、俺の状態を一段落とす。過去、俺は、俺のためだけに存在しているのではなかった。音ということは、繋がるためのツールであった。ただ、今は違う。音は怖い。お化けと一緒だ。意味もなく、怖い。理由はあるのかも知れぬ、単純に、音が出ぬということだ、音がでぬのが怖いから、音自体が怖い、わけがわからぬね、俺もだ。気持ち悪い気持ち悪い。最後、俺を殺すのはまぎれもなく音であろう。音は怖い。耳をふさげば、耳鳴りの音が迫ってくる、駄目だ、逃げ場は残されていない。
妥協している。妥協は一番恐ろしいもののひとつだ。怠惰が生まれれば、そこから妥協は日常を蝕む。逃げてはならぬ、それは弱い心だ、そんな常識大事に抱えているから、現状は俺にとって何のプラスにもならない。だからといって努力する気などさらさらないのだ。つまらない生物だ。生物でないのかもわからぬ、破れたダンボールくらいの。
愛し合いされることはそんなにもくだらぬか? 俺はそれを否定してきたか? 違うね。それこそが俺の存在であった。けれど、存在は今崩壊した。
笑っていた。その笑い顔が気持ち悪い。
俺はまだやれる、と吐き出してみるも、意味のない。俺はここまでが限界だ。俺のここまでは現実だ。嘘をついていたはずなのに、嘘でなくなっていく。気持ち悪いよ。


あの子は、昔、自分のことを『僕』と呼んでいた。そればかり考えている。