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残念、きもちわりぃんだ。全部ぶっ壊れちまえよ。頭の痛みは朝から治まらず、この時間になって脳のほうがようやく絶望を見つけた。何にも見えず、部屋の隅。毛布被って吐く。吐瀉物の酷い臭いのの揺れる中、天井見るも恐ろしく、頭をぶつけては、うずくまる。な、痛くねぇんだよ、こんなもん。俺はずうっと昔からさ、口では正論吐きながらも意気地なしで、ただの死にたがりなだけだから。気持ち悪い。何のために存在してるの? もちろん俺は俺自身のためだ。じゃぁいらねーじゃん、残念。食って、吐いて、食わずに、吐いて。結局吐くんじゃねーかよ! 胃液しかでねぇのにな。排出することに意味はないのか? 残念。
黙れよ。うろつくなよ。視界から色彩が失われ、耳鳴りの中、ぞわぞわと。
俺は気違いなんかじゃない。馬鹿にすんな。一緒にすんな。手首掻っ切るようなあの子とは、俺は、全く、違う。いや、どっちもただのポーズか? 俺さえも嘘だ。
嘘だろ? 全部嘘なんだろ? 知ってんだぜ。全部お見通しだ。その言葉は偽善で、自分に酔っているだけだ。優しさが不器用なんじゃなくて、冷血なだけだろ。その汚い心ん中じゃ、本質的に自分は勝っていると考えてるんだろ? それ、なんていうか知ってるぜ、優越感だ。だからそんな嘘が吐けるんだ。馬鹿にすんなよ。残念だ。


覚えてるか、俺の信じたもの。案外薄っぺらかったな。薄汚い空に思う様広げられた天幕のようだ。俺なんて薄い薄い。最近のテレビなんて目じゃないぜ。ドロドロになった布ならばいっそすがすがしいが、俺など精液で汚れたシーツも同じ。


携帯をつけて、メールが三通来ていて、どうしようもなくて、切って投げる。何故俺はそれを確認した? 俺はやはり、誰かの胸にすがるしか? そうだろうな、残念だ。まるっきり誰をも心からは信じられねぇ俺なのに、そうせざるをえないのか。束縛が何より嫌いだ。規範自体は嫌いじゃない、けれど、笑顔での束縛が何より、嫌いだ。


ね、できるでしょ? ね、わかるでしょ? ね、そうしてくれるでしょ? うん、そうしてくれると思ってたんだー。じゃ、よろしくね。あー、そう、君がやんなきゃ。ね、できるでしょ?


うるさいよ畜生。きもちわりぃんだよ。吐く。


頭、おかしいんじゃない? 一度だけ、言われたことがある。すがりついて、すがりついて、その先の言葉だった。さよなら、と、答えた。もうマフラー捨てちまった。冬が寒くてかなわないよ。頭、おかしいんじゃない?
僕は裸にされて写真取られたこともないし、フェラを強要されたこともない、あ、男に告白されたことはあるがな。な、それでも、あいつとはまるっきり違う、まるっきり普通な時間を過ごさせてもらってるよ。だから、ここで俺が自分の名前さえ失っちまうのはまるっきり甘えだろ? 甘えだよ。甘えんな。畜生。
触れられるものは大体嫌いだったから、好きになることが偉いんだと思ってた。大好きだということが素晴らしいんだと思ってた。まやかしだろ? 大好きだと言った口から気違い認定だ、笑わせるね。


ちょっと歩いてくる。




寒かった。あほか、冬だもん。そりゃ寒いさ。いまどき夜のブランコさえ占有されてんだね、知らなかったよ。目があって、俺はびびりだから一歩引いたけど、何だ、知り合いでよかった。眉毛なかったけど、元のままだった。かわらねぇなぁ。曖昧に言葉濁して帰ってきたよ。あいつら、自分をほんと、大事にしねぇのな。俺なんて自分の身が何より大事だっつーのに。会えて良かったとは思わない。けれど、事実だけは、覚えている。
改めて部屋に入ると胃酸の臭いが酷い。窓とドア開けっ放しにしてきた。寒いほうがましだろ、きっと。


らー、らー、らー、らー、らー、らー、らぶ、らぶ、らーぶ。なー、君、らぶ、知ってますか。愛ってことですよ。愛って見返りを求めないんだぜ? すげぇよな!
あの時僕は単純にセックスがしたかった。けど、これまた僕はびびりだったから、ずうっと手が出せずに、並んでドキドキしてた。好きすぎると逆にオナニーの妄想にも使えないのな、知ったのはあの日だったよ。
らー、らー、らー。あれ、らぶだったんかな。


今から嘘つきます。だまって見ていて下さい。
タイトルはそうさね、『きっと。』

 きっとどのみちあの子はハルシオン見せびらかすの、ずうっと未来までやめないんだろーけど。嬉しそうに、また種類が増えたんだよー、って。また量が増えたんだよー、って。確かに君のゴスロリ姿は可愛い。俺には眩しすぎた。だから、何にも言えなかった。痛い自分、とか気違いな自分、とかを上手く出してやることができなくてさ、実際君にとっちゃそれが現実だったんだろ? わかってるって。誰もが忘れても、君がいつも長袖で、手首の傷を見せびらかす出なく隠すようになる日でも、僕が君の手首の写メ、持っといてあげるよ。いくら新しい携帯に変えたって、ずうっと保存しとくよ。いくら君がリストバンドをしたって、そこに自慢げに包帯巻いてた時間を、覚えておくよ。きっと、忘れないから。

 もったいないなと、思った。せっかく白くて細くて綺麗なのに、もったいないなと思った。わざわざ疎外されるために切ってんのかな、とか検討はずれなこと思ってた。
 きっと君は、仲間に入りたかったんだろ。話題になりたかったんだろ。僕にはわかるよ、なんて君は憤慨するだろうね。そうさ、僕だってこんな自分の言葉、いや、くだらない一般論、信用しなんかしないぜ。僕には君のことなんて何にもわからない。いや、ひとつだけ、髪がきれいだっていうのは、わかるよ。
 君のメールは、全部保護していたから、昔パソコンに一度だけ取り込んだ気がするんだ。どこに行っちまったかわからないけどね。きっと、まだある。
 君のこと、誰もが好きになっても、僕だけは嫌いでいてやるから。束縛は嫌いだろ? けどさ、ひとつだけ。深夜にメール送ってくんの、やめてくれねーかなーとは、思ってたんだぜ。返さないと二度三度送ってきてただろ。

 きっと、君の言う嘘つきたちは今でも嘘を吐くのをやめてないだろ? 厚顔無恥なままだろ? でも、きっと、それを許せるように、成長しちまうんだろ、君は。
 きっと、君を忘れないから。

おしまい。嘘でした。フィクションでした。


あんまり僕は恵まれてるから、甘えてんだろうな。


さて、ここまで俺のひとりよがり。これから先はありません。