索敵

見えた幻影は、理想とは名ばかりの、自分勝手で歪んだ世界であった。失いたいものなど何もなく、捨てられるものなど何一つなかったはずなのに、軽くなることばかり考えている。昔の漫画に出てくるようなさ、石のお金のようなものだ。使えはするけれど、持ち運ぶには重過ぎる。転がせればいいのだけれどもね、どうやら四角いようなのだ。
責任を、常に思い悩んでいる。俺に嫁せられた責任などね、俺一人がまかなえるほどしかないのだ。それにもかかわらず、重い、重い、と感ずる。小さな男だ。自分自身の身を守ることさえできぬ。それなのに他人のことなど考えられようはずもない。ずうっと考えている。非力を考えることは、無力を考えるより無意味だ。別の解決案など出るべくもなく、ひたすら道の険しさを嘆くのだから。
けれど、事実、俺はそんなものではないらしく、そこそこのことならば、一応こなして見せることのできて、きた。何事も上手くいくとさえ、信じていたこともある。それはもちろん幻想であったし、早々に打ち砕かれたが、そんな時期も、確かに存在していた。
無敵であった瞬間の俺ばかり、覚えている。
いつものとおりの、杞憂に過ぎない、のか? 多分に俺は、限られた環境、限られた状況下でしか、能力を発揮することのできぬ。それ故の、杞憂なのか? 限定された状態、それがいつしかやって来て、その時に全ては杞憂であった、となるのか。
隣は絶壁となってしまうが、無敵を、望むのは、俺だ。