金魚救い

言わなくていい事を、山ほど言ってしまう。やらなくていいことを、山ほどやってしまう。その代わり、言わねばならぬときに言葉は出ず、行動は全て空回り。ま、いつものことだ。


 少年に、出会った。
「へぇ、君、サカナなんだ。ねぇ君、山の向こうには行った事、ある? ない? そう、ないんだ。奇遇だね、僕もだよ。サカナ、サカナなんだ、君。うん、サカナは、珍しい、よね。向こうから、ここまで、ずうっと歩いてきたけど、サカナは、うん、君一人だった。サカナかぁ、どちらかというと君、カエルに似てるよね、違う? 違わないよね。あ……君のその息の音、好きだよ。
コヒュー、
コヒュー、ヒュー、
コヒュー、
コヒュー、グルグル、
似てる? 似てないか。ちょっと残念。あぁぁ、その水かきも素敵! ね、よく見せてよ、ほら! ふぅん……爪はとがってるんだ。いいね、山の向こうにもいけるんじゃないかな、君なら。そうそう、山向こうから来た羊、にさ、会ったことある? 角がこんなに大きくてね、いろんなことを話してくれたよ。口をもぐもぐさせながらさ、ほら、こんな風に。わかりづらいかな? こんな風だよ、こんな風。もぐもぐもぐ、ってね。山向こうは素晴らしいところだっ、て。何度も何度も繰り返し言ってた。だったら、彼は何で、こっち、に来たのかな? 僕にはわからないけどね。でも、山を越えるのは難しいよ、聞いて、る? 山では何もかもがぐちゃぐちゃだからね。音も、色も、風も、水も、時間だって例外じゃないさ、ぜーん、ぶ、ね。だから、山を越えるとき、には注意したほうがいい。君だってどうなるか、わからないさ。その水色の肌が真っ白になるかも! それはそれで綺麗かも、しれないけどね」
 少年は、どうやら狼に似ていた。

物語を、いくらか書いて、悶々とする。書きたいものは、見えている。ただ、それが完成したときに、どういう評価を受けるか、あるいは、あの人がそれを読んで何と言うか、がまったくわからない。気にしないことだ、気にしないこと。完成するのかもわからないうちから、考えていては、駄目だ。