YOWANE

「あんたがどんなに良いことをしても、あんたがどんなに人に認められても、あんたがどんなに誰かに愛されても、あんたがどんなに綺麗な顔で笑っても、あんたがどんなに可哀想な顔で泣いても、私だけは、世界中の誰もがあんたの味方になっても、私が今日この日のあんたの嘘を覚えていてやるから!」
「…………」
「だから……今日だけは、泣きなさいよ。ヒーローに涙は、似合わないから」
「………ありがとう…………ありが、とう」

書きたいものを書く。
文体が、安定しない。こんなものでは駄目だ、簡潔すぎる。けれど、こっちは複雑怪奇、意味のない言葉の羅列だ。どこを見ても、自分の書きたいものとは思えない。また五千字ほど書いて、読み返して、消す。この、今の感覚を、そっくりそのまま、水にたらした油絵の具を紙に写し取るように、描写してしまいたいのだが、言葉が浮かんできはしない。文章に、言葉というものに、意味が見出せない。連ねていくことで出来上がるものに、魅力を感じない。テーマを一貫させること、正義は勝つということ、偽善者気取りが一番格好悪いこと、あの子が超可愛いということ、雨が冷たいということ、夏は暑いということ、あるいは、それらの、全て。書いてしまいたいのだが、いかんせん俺のスペックには限界がある。全部を全部、一字一句書いていけば容量オーバーだし、まとめて書こうとすればメモリが熱暴走だ。


アニメを、見る。一介のオタクと成り果てた俺に、崇高な文など書く理由はなくなる。これだ、この感じだ。やりたいことの、ある。だから、とりあえずはそれをやる。やらねばならぬことがあるのなら、それを片付けた後でも十分間に合う。そうだ、この感じだ。やりたいことを、延々、やる。俺が俺に許す限り、ずっとそうしている。それだけだ。あまりにも単純。


できなければ、どうする? それか、やりたいことがやりたくなくなって、何もなくなったら?
何もなくなったら、俺には何もなくなったということだ。俺の周りに誰がいようが、そんなことはまったく考える必要もなくなる。あいつが頑張っていようが、泣いていようが、まったく関係ない。どうでもよくなる。あの子がどこかの男に告白されて、どこかの男とセックスしても、俺にはまったく関係しない。
今のところは、多大な義務感の中に、ほんの一握りの楽しさが、残っているので、俺は、やる。これがなくなったら、もうさ、後のことなんて何にも考えないよ。