春の

ピンポーン。
女の子が、黒猫抱えてやってきた。
デジャブ。去年もこの時期だったか。死んだ小さな黒猫、思い出す。カラカラに固くなってさ、口大きく開けた形でさ。埋めてやったけど、今ごろ骨になってるだろうか。
「ん、どうしたん?」
「ねこ………」
「可愛いな、うん。うわ、超やわらけぇ」
よほど図太いんか、もふもふしても寝てやがる。半目をあけて、鳴くかと思ったらまたぐっすり。小さな黒が、白いワンピースに映えて美しい。去年のよりも二回りほど大きいか。
「で、この猫がどした?」
「あの、飼って欲しいんですけど」
"ん"に変なアクセントがあるな、この子。
「ご飯もたくさん食べるし、元気だから、飼って欲しいんです。捨てられてて、家では飼えないので、探してるんです」
「あー」けれど、俺はいわゆる思考停止状態。言葉はあまりにもつたないけれど、伝えんとすることはよくわかる。けれど、拒否せざるを得ないのだ。「うちさ、飼えないんだよね、猫」
すまないね、少女よ。
「え、そうなんですか?」
「ごめんね、妹が喘息出るんだ、猫」
「うー、すいませんでした」
ぺこりと一礼して、去っていく背中見ながら、ドアを閉める。
ふと思い立って、もう一度ドア開けて、小さな背中に声をかける。
「なー」振り向いて首傾げる小さな体に、もう一度話し掛ける。「向かいの田中さん、飼ってくれるかもー」
目が輝くのがここからでもわかる。可愛いな。猫も女の子も。
「行ってみますー!」
俺が答える間もなく、とてとてと行ってしまった。転ぶなよ、少女。
変にスッキリして、またドアを閉める。同時にメールの着信音。
『さっきテレビ出てた??』
おう、出てた出てた。
『おう。今暇?』
それだけ打って、すぐに返す。
あまりにもいい天気だから、大きなヘッドホンして、熱帯のDVDでも見ようかね。