君の支配と僕の純真

あの人と話した。何の解決にもなりはしなかったが、多少の安心感。な、思ったとおりだ。俺はただ、解決も望みはせず、相槌が欲しかった。少しの同意があれば、それでよかったのだ。昨日の夜のおかげで、まだ俺は生きていける。ありがとう、とね、書き記しておく。
愛というものの俺の周囲に存在しているならば、少なくともそれはあの子から俺へ向けられるものを鋭敏にしたものであって、けして俺からあの子に向けられているものではない。忘れてなかったよと言われることのうれしさよ。覚えていたよと胸を張る彼女のかわいさよ。つらいならがんばるなと言う不自然さよ。俺の手を無言で握って。多分それはそういうものなのだろうね。俺にはどうやら発揮できそうにもない。
腐ったことばかりを考えている。常識から逸脱し、縛られてもいないのに開放を望む。語る言葉は全て嘘っぱちで、白々しい視線で笑っている。俺の、この欲望は、つまりはあの人との共有財産になったわけだが、俺の分が持ってもらえたわけではなく、行使する権利だけがあの人の手元に少しだけ行ったのである。おびえる日々は変わらず、首をかしげる習慣もなくならぬ。やっていることは依然変わらず、やりたいことも変わらなかった。
君の絶対的支配と僕の奇妙な純真よ。僕は、僕自身の意思で、君に屈服する。僕は、僕自身の意思で、君という存在を、信用し、信頼し、信奉し、信仰し、進行し、侵攻する。見たこともないものがこちらを見ていたのではなく、ねじれた自分が笑っていただけだ。気づかなかったのではなく、信じようとしていなかっただけで。
あまりにも典型的な崩壊。一般的過ぎてうんざりするのは相変わらずで、全部が全部、必死に待つことでしかかなわず、行動というものの意味を再三問う。敬語で語りかけたのは、先輩面した答えが欲しかったからですよ。それだけは、見ているかも知れぬあなたへ、そっと書いておく。馬鹿じゃないの、と一言鼻で笑って、それから、でもね……と語りだしてくれればよかったのに。すいませんね、欲望過剰だ。人が人でない振りをするのを望まないのに、人には人を押し付ける。まったく理由がわからず、それでも腕は動く。細すぎる指先は肌を這うこともかなわず、自らの情欲を満たすためだけに。
未知のもの、抽象的に書くに耐えぬもの、見つけ出したいのだが、あいまいで輪郭がぼやける。探してみたいものは全部妥協して探し終えてしまった。これからは、細部をはっきりさせる作業かね。眼鏡を買ってこなければ、とぼんやりと思う。フレーム、選ぶのが楽しいように。
また、話したい。不特定多数に向けて、俺は声を発信するのだ。俺はここにいますよ。十数秒おくれで貴方がたに届いていますか。俺の声は心に響きますか。泣いていませんか。笑っていますか。怒っていませんか。僕は話して良いですか。
まるで二年ほど前の俺。久々の、この感覚。嘘を本当のように、こだわることもなく。生きているだとかね、死にたいだとかね、思うことはとどまらぬだろうけれど、そんなものに答えなど俺は出せぬ。一人で落ちていくだけの時間ならば、いらぬと何度も断ったのだが、あの人によるとそれも必要なことらしい。どこまでも偽善。
結局ぬいぐるみ以上の何かを求めていた。