ラジヨ

ラジオをラジヨと発音するその人が愛しくて仕方がなかった。僕の中での流行は、すべて彼(もしかすると彼女、なのかもしれないが、判別は不可能だし、それがどちらにせよ僕には関係のない話だった)の模倣に過ぎなかったし、僕が使う言葉はすべてその人の劣化コピーに過ぎない、のだった。
ある日、彼、便宜上この先は彼で統一するけど、彼は、自分のことを彼の尊敬する、もちろん僕の敬愛してやまない、とある人の劣化コピーであるのだ、と言い切った。それは僕にはもちろんショックであったのだけど、むしろ安心感、自分と彼が同等のステージに立っているかのような、そういうものを覚えたのだった。
でもそれで彼への評価が下がるということはなかった、当たり前のことではある。僕は彼の生み出す言葉が好きだったし、彼のつむぐ物語が好きだった(回想のような文だからまた便宜上、だった、などという言葉を使っているけど、僕は今も彼のことが大好きで仕方がない)。そして、なによりも僕は、彼自身、が大好きだったのだ。今でも、大好きなんだ。これ告白。
ある日、彼の足跡を僕がたどることができなくなってから、それはつらい時間だったが、それから数週間たったときに、彼は帰ってきた。おかえり! そう叫んだ僕に、ただいま、と一言だけ言ってから、彼はその間にあった物語を、僕の大好きな彼自身の言葉で、語ってくれた。それははらはらするほどの冒険物語であったし、どきどきするような恋愛物語であったし、やはり何よりも、彼の物語だったから、僕は息をすることさえも忘れて、それをどうにか吸収しようと必死になった。
彼の語る物語が、すべてそのままに終わってしまってから、僕は彼に惜しみない賛美の言葉を送った。すると彼は笑って、ひとつだけ面白い話を伝えるのを忘れていたよ、と僕に告げた。僕はわくわくしながら、彼がその話を僕に差し込んでくれるのを待った。彼はゆっくりと語りだす。そうして、この話は彼の一言で幕を下ろす。
「今までの話、さ、全部ね、嘘なんだ、作り話、ね、わかる?」
そのとき、僕は、彼のことがもっと好きになった。