黒目

本日は雨の中、三月三十三日。
昔の友人達と会ってきた。短い人生の中でも、昔といえる面々。在りし日の面影や、空気や、あるいは変わった声や顔、どうしようもなく狂おしく。知っている名前の活躍を聞いてきた。へぇ、あいつはそんなことをやっているのか、と奇妙に頷いて見せるのも忘れず、素直に感動する。どうやら、馬鹿だ馬鹿だと笑っていた彼の働き始めたらしいという話を聞いて、安堵する。解体をね、しているらしい。ふむ、お似合いじゃぁないか。会っておきたかったが、今日も忙しいとのこと。
その中で、またもや俺は、昔の俺を演じ、これこれこういうことなのだと言って見せるも、心の奥ではそれが嘘だとわかっている。斜に構えた彼の爆笑と、綺麗になった彼女の白い足と。あの子の心癒す声も、俺には届かず、昔のかっこ悪い思い出などね、染み入るように聞いてきた。いまひとつ、いまいっぽ、本筋の俺へは侵食せず、小さく避けた俺が、あはは、と笑う。
ただひとつ。俺と背丈の似ている子……可愛く、本当に可愛くなっていた。とてもね、驚いた。伏目がちに、照れて見せる仕草も、情動を呼び起こしたし、そう、ちょっと興奮しちゃった、と呟き、えへへ、と笑う顔も、俺をぶちこわした。伸ばしていた髪、切ったんだね、俺の問いかけに、うん、と曇り空見上げたね。メールアドレス、聞いてきた。送ることはないだろうけどもね。今俺が好きでなければいけない人を、もしかすると………もしかすると、忘れてしまうやもしれないから。浮気がちなのかね? 一途だと自分を思っていた時代は収束。
桜は咲かぬが、小さな満足。違う世界も垣間見たことだし、このちっぽけな嘘吐きも頑張れるかね。