再発

嘘が全て剥げ落ちかけている。
今まで美しいと思っていたものの、本質、あるいはまやかしなのだろうか、汚い部分、つまらない部分ばかりが目に付く。絶望に達するまもなく、あまりにも一般的過ぎる倦怠感と虚無感にさいなまれる。全てが、目に入るもの、耳に入るもの、面倒だ。感動した絵からさえ目をそらし、心かきむしったロックからさえもヘッドホンを叩き壊そうと思うほどの不快感。くだらねぇんだ。なんだその音は? なんだその色は? 脳が拒否する。頭痛に耐えかねて眠り込み、起きた直後の体の重さよ。過去の自分を全て否定し、現在の自分を全て否定し、未来の自分をも否定できると信じ込もうと。
もしかすると、いや、ほぼ確実視して良い話なのだろうが、俺はあの子を、もう、好きではないのかもわからん。日に日に、彼女の言葉は俺には重くなりすぎてゆく。もちろん、前提条件として、あの子はまったく悪くはない。いつもどおりすぎるくらいだ。けれど、それが俺には面倒で仕方がない。あの子自体が嫌なのではないのだ、とは思う。ただ、あのことの接触によって生まれる全ての事象が疎ましい。声も聞きたくない。顔も見たくない。笑顔なんてもってのほかで、吐き気がする。でも、嫌いじゃないんだ。それは信じて欲しい。また奇麗事だ。なあなあで先送りするのはやめようよ。かっこわりい。嫌いだ。
もう区切りにするかね? これ以上何も望まぬことにして、持っているものも全部捨ててしまうかね? どうかしてる。どうかしすぎている。
でも、重い。誰も俺に期待していない。誰も俺を見ていない。それが今の理想なのかもわからん。実際それらとまったく反対の方向へ向かっている。責任を欲しがったのは俺だ。行動をせねばならんと高らかに叫んだのは俺だ。だが、それは嘘だったのかもしれない。
かもしれない、わからない、曖昧すぎるんだ。それにさえ殺意を覚える。自分のことなのに言い切れもしないのだ。無力だ。

「もうやめようよ」
 そう言われるのを、俺はいつだって欲していたし、恐れていた。
 終わってしまうのだ。なぁ、きっかけがひとつでもあれば、ドミノ倒しのようにとはいかないが、ぷよぷよくらいには連鎖するさ。
 俺の愛する友人が、そう言ってくれるのを、夕闇の中、三人して帰る日も、俺は口をあけて待っている。俺とお前とお前と俺の距離は一定から近づきはしないし、近づけてはならないものなのだろう。友情と恋愛は似ている。愛情はどうだかね、俺には未だわからない。

さて、幻想であった。俺の愛すべき理想の友人など存在しなかった。ごくごく素晴らしい存在が、居たのみである。

 人に嫌われたことが、面と向かってそうであるといわれたことが、極端に少ない。
 敵を作りたくない。痛むのはいやだ。それくらいなら、牙などおもちゃと差し替えてしまえ。キャンキャン鳴いているだけなら、大きな犬には噛まれやしない。
 もって生まれた爪は偽者だよ、と言い続ける中で、自分自身が、どうやらこれは本当に偽者のようだぞ、と思ってしまえば、それまでだ。
 能ある鷹は何とやら、と呻くのだが、爪を磨いていたはずが、いつの間にやら擦り切れてしまっている。ずいぶん短い爪だったらしい。

俺が求めている場所は、俺にとって都合が良すぎる所なのだろうね。俺と、俺の愛する友人と、俺の愛する人と、理想的な距離でいて、決して近づきすぎず、依存せず。ありえねぇんだ、んなことは。人に散々言っておきながら自分がこのざまかよ、いや、人に散々言ってきたからかな。

「ここはどこ?」
「猿山」
 回りは見たこともない生き物ばかりで、萎縮する俺自体が、見たこともない生き物だ。
「俺は」
「猿」
 知ってる。

な、ただの思春期だ。くだらねぇ。
整合性も、論理性も、かけらすら残ってやしねぇ、もとからなかったのかな、そう思うだけの時間だ。