DNA過敏

また落下か! クソ! 二、三日おきにきやがる!
楽器を見るのも嫌で、震える手で部屋の隅に置いてきた。音を込めるなどもってのほかだ。触れるのも嫌だ。冷たい感触を思い出しては、ゾッとする。俺の音は完全に失われてしまった。声を出すのも嫌で、せわしなくあたりを見ては、窓の向こうにびくりとする。カーテンを全部閉めてから、ベッドの下の隙間が気になり、無理やり毛布を詰めた。部屋があまりにも広すぎる。振り返り振り返り、壁に背をつけてみてから、なんとかしようと試みるも、何の解決にもならず、壁の向こうに何かいるのではという不安に苛まれるだけである。
ずっとそうしているのも痛いので、何にもない振りして、ぽかんと口開けていた。
やや収まってきたが、楽器を目にしてしまい、また落下が訪れる。駄目だ。あれは、要するに、期待の塊だ。つまりは、俺に向けられた視線、あるいは声、励まし、全部。つぶれる。クソが! 栄養だったはずのモンが全部俺を腐らせる要因と成り果てる。携帯の電源を切り忘れていたことに、メール着信で気づき、メールも見ずに電源を切る。手の届かない位置に放りなげる。一連の動作。
技術を求める者。協調を求める者。どちらもが怖い。下手な奴は死ねばいいのなら、俺は死ぬ。また、仲良しこよしでいなければならないのなら、俺は死ぬ。あいつの舌打ちが聞こえる。嘘だよ、聞こえるはずはない。思い出されただけだ。幻聴など聞こえない。幻覚など見えない。故に、俺はいつまでも正常。ここは素晴らしき世界。美しき人々と愛すべき物であふれている。うんざりだ。クソが!
終わっていく。努力をせねばならんとは思いつつも、駄目だ、どうしようもない。ページをめくるのが精一杯だ。
暑い。酷く暑い。布が、体を覆う布が邪魔に思えて、全部取り払ってしまってから、椅子の嫌な感触に気づく。駄目だ。やはりどっちにしろ駄目なんじゃねぇか。
誰かの声を求めている。助けて欲しいと思っている。なのに、他人は全部拒絶だ。馬鹿なんじゃねーの。弱虫が強いフリするからだ。もしくはその逆も。できないという奴に腹が立ち、できるという奴に腹が立つのと同様に。今の俺は、自分以上のものを見ていられない。故に、全て見ていられない。卑屈だ。卑怯だ。全ての努力を放棄する。
ぬるくなった水は、尿かと思うほど不味い。
頑張っている人々には、それ相応の酬いが。わかっている。わかっているんだ。どうすれば良いか、俺は全てわかっている。どうしなければならないかも、何をしてはいけないかも、何をしてもいいのかも、全部が全部俺の掌の上だ。だというのに、俺は動かない。歩きも走りも、見も聞きも、果ては息をすることさえも放棄したがっている。クソが! 素晴らしいものが。あるのに。あるというのに。ちっとも素晴らしくねぇんだ! 最後までやり遂げた高揚感だとか、そんなもんは知ってるよ! あの涙、見ただろ? でもそんなもんはクソだ。何の価値もない。面倒だ。ただ面倒なだけだ。嘘じゃなかったものが、嘘になっている。本物は本物のままなのに。俺の目が、腐ってきている。ゆっくりドロドロになっていく。あるいは急激に、割れる。
はじまるな。
はじまる。
馬鹿か。俺は思春期の中学生か。俺はこんなもんじゃねぇ。こんな気持ちの悪いもんじゃねぇ。唸ってみるが、結局俺はここ、この場所どまりだ。クソが!
まだ勃起する。ただの変態だ。
あぁクソ、終わるな。時間が無為に過ぎていく。当たり前だ。有意義と思える動きを、まるでしていないのだから。論理的思考がまったく働かない。一だと思ったら二になる。あるいは三にも九百億にも。変化する。流動していく。
まとまりはない。故に、終わりはない。文は終わるが、俺は続いている。
クソが。